もう数年前のこと、広島のおりづるタワーというところで僕の友達が働いていました。
彼は僕の会社の同僚だったのですが、地元に近い広島に戻っていたのでした。
その後連絡を取っていなかったのですが、どうやら彼をおりづるタワーで見かけた、という話を何人かから聞いたので、ホントかどうかちょっと確かめに行ってみよう、と思ったのです。
それは広島の美しすぎるゴミ処理場「エコリアム」というところに行ったときの話です。
ここは別のサイトに詳しい記事を書いているので、まだお読みでない方はこちらをぜひ。
実はこのエコリアム、広島にいる知人の女性からの情報で知った場所なのです。
SNSを通じて繋がっていた彼女が、ある建築家の先生をこのエコリアムに案内したときの写真を載せていたのを見て、ここに来てみたいと思っていたのでした。
ちなみに彼女は僕の妄想小説ファンクラブ会員番号2番という輝かしい称号を持っているにもかかわらず、まだ一度もあったことがないという、まさに妄想つながりの女性なのでした。
せっかく広島に来て、エコリアムに行くことになったので、それを教えてくれた彼女に報告しようとメッセージを送ったところ、
いらっしゃってるの?
うん、これからエコリアムに行って、そのあとはおりづるタワーに行こうと思ってます
まあ!そこは私の家から歩いてすぐ!
…じゃあ、あとでデートに誘います
くす。
というわけで、この「くす。」はYESに違いない、と判断した僕は、エコリアムを見終わったあと、彼女を誘っておりづるタワーの前で待ち合わせをすることにしたのでした。
夕暮れの原爆ドーム。
原爆ドームのすぐ左にある茶色い建物が、おりづるタワーです。
ここは広島マツダ(マツダ本体ではなく、ディーラー)が建設・運営に携わった地上14階、高さ51.5mのビルディング。
この付近で創業した広島マツダさんは、原爆で全社屋、全社員を失うという悲劇に見舞われたのですが、戦後、見事に復活。
「創業の地に、原爆の悲惨さだけではなく、広島の復興や未来、希望を感じてもらえる場所を作りたい。そして広島から受けた恩を返していきたい」 といった思いが込められた建物、それがこの「おりづるタワー」なのです。
入口前で待ち合わせていたら、プロフィール写真で見覚えのある、しかし写真よりずっと小さくて、色白で、きりっとした顔がそこにありました。
恥ずかしいんだけど、私、広島にいながらこのおりづるタワー、初めてなんです
SNSでずっとやり取りをしていたからでしょうか、彼女とは全然初対面って気がしません。声だって初めて聴くのに、ずっと前からこういう声だったよね、と思っちゃう感じ。
大丈夫、大丈夫、ここ、友達いるから
何が大丈夫なのかよくわかりませんが、なぜかそんなことを言いながら受付で友達を呼び出したら、今日はお休みです、とのこと。
ダメじゃん!クリスマス前の土曜日のかき入れ時に、なに休んでんだよ!
というわけで、2人分のチケットを買って、一般客人として入場することになっちゃいましたが、ドンマイ!
このおりづるタワー、タワーといっても14階建ての複合ビルで、途中のフロアは一般のオフィスが入っています。
観光施設は1階のショップとカフェ、12階の「おりづる広場」、屋上部分の展望台「ひろしまの丘」のみ。上層階まではエレベーターもあるのですが、散歩坂とよばれるスロープであがることもできます。
まずは展望台に行ってみよう!ということで屋上階の「ひろしまの丘」へ。
この「ひろしまの丘」は、ウッドデッキの展望スペースから平和記念公園・原爆ドームや広島城、晴れた日には宮島の弥山まで見ることができるスポット。地上14階相当の高さなので、すごく高所なわけではないのですが、なかなかの眺望です。
原爆ドームも真上から、すぐ目の前に見下ろすことができます。
この角度から原爆ドームを見たことはなかったので、これだけでもちょっと感動です。
広島人もこの角度からみたことはないと思います
僕の右側で、彼女がポツリとそういいます。
ドームの敷地に残されている、崩れた壁の破片もはっきりと見えます。
あまり高すぎないから、いいのかもしれませんね。
ひろしまの丘から北方面の眺め。
手前の空き地は昔の広島市民球場跡。少し先に広島城のお堀が見えます。
私のマンションは、あのあたり・・・
彼女が指差して教えてくれます。
うん、確かに近いね。
もう少し遅く、夜景の時間になってからもう一度ここに来てみたいので、12階のおりづる広場へと降りてみます。
おりづるタワーの12階は、おりづる広場という名前のフロア。
ここには大画面のデジタルコンテンツを使ったおりがみ体験や広島の戦後の復興を表現したCG映像などが楽しめるコーナー、原爆の爆心地を目の前に見下ろす展望スポットなどがありますが、メインはなんといっても「おりづる」。
このおりづるコーナーで専用のおりがみを購入して、おりづるを折るのです。
おりづるの折り方は、おりがみセットの中に書いてあるほか、卓上のモバイルでも詳しい説明映像を見ることができます。
でも、なかなかうまく折れません。
僕だって昔は鶴くらいは何度か折ったことあるはずなんですが、途中でわからなくなってしまいます。
僕の隣りで器用にすいすいと鶴を折っていく彼女を意識するたびに、どんどん焦って何度もやり直しして。
彼女は最初、ひとつひとつの折り方を丁寧に説明してくれたんだけど、結局途中で僕が混乱しちゃうので、最後は彼女が自分で折って完成させてくれました。
まだ初めて出会ってから30分も経たないのに、手取り足取りはできないよね。
僕と彼女、それぞれ1つずつのおりづるを手にすると、この「おりづるの壁」へと案内されます。
このおりづるタワーのシンボルともいえる「おりづるの壁」。
おりづる広場で折った鶴を、平和への想いや祈りを込めながら、この壁際の隙間に入れるのです。
たくさんの人々により投げ入れられたおりづるは、タワーの壁面に積み重なっていきます。
そしてそれは外から見えるようになっていて、いつの日かそれが全面を覆い尽くせば「おりづるの壁」は完成するのだそうです。
さん、にい、いち・・・・・
二人同時に手を離すと、僕と彼女のおりづるはゆっくりと円を描くように、時々交わりあいながら落下していきます。
やがてそれは遠く見えなくなって、たくさんの祈りの中のひとつになりました。
再びひろしまの丘に登ってみると、ちょうど夕暮れが深まり、広島の街は幻想的な紺と紫のグラデーションに包まれていました。
広島の夜景も、こんなにきれいだったんですね。
彼女は黙ってこの景色を眺め続けているだけでしたが、なんとなくそう言っているように思えました。
このおりづるタワーの入場料は大人1700円。
地方の観光施設としては、この金額は高すぎるのではないか、という意見もあるのだそうです。
価格と価値とのバランスは、個人によって異なるので、いいとも悪いとも言えないのですが、世界遺産・広島の象徴として恥ずかしくないものを作りたい、というオーナーの思い通り、このおりづるタワー、ハード、ソフトともかなり完成度の高いつくりになっています。
僕の好きなセトゲーの犬島精練所美術館を建築した三分一博志さんのデザイン、館内のスタッフの数、ホスピタリティ(やや多すぎる感もありましたが)など相当なレベルにあるのは間違いありません。
あとはそれぞれがここで感じた思いに、いくらの価格をつけるかの問題だと思います。
さっきはあんなに近く見えた彼女のマンションは、広島城の向こうの闇に染まって見えなくなっていました。
これからどうする?そんなに近いんだったら、アンデルセンでザッハトルテでも買って、1日早いけどクリスマスパーティーしようか?
いつもの調子で、そんな冗談を言おうとしましたが、家でこれから夕食の準備をしなければならない彼女が、なぜだか「くす。」と答えてしまうような気がして、僕はこの圧倒的な広島の夜景を見ながら、何も言えずに彼女の横に立ち尽くしていたのでした。
<2016年 12月訪問> 最新の情報は公式サイト等でご確認ください
広島 おりづるタワーへの旅
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