「この夏は『特別な夏』。都外への旅行、帰省についてはお控えいただきたい」
2020年の夏、僕たち東京都民は知事・百合子のこの発言で、お盆休みの前後、東京都内に籠ることになりました。
うぇー、せっかくの夏休みなのに東京から外に出られないのか!もう近場の散歩はさすがに飽きたぞ!
待てよ、じゃあ東京から外に出ない旅ならどうだろうか。密を避けてひっそりとギリギリ百合子の守備範囲内を旅するのならいいんじゃないか?
そんなわけで、夏休み初日の朝、僕はとりあえず東京の一番奥を目指して旅立ってみたのでした。
(もちろん三密回避で、毎日の通勤や買い物よりたぶんよっぽど安全な旅ですよ)
東京の一番奥と言えば、やっぱ奥多摩
東京の一番奥と言えば、普通の人は奥多摩らへんを想像しますよね。
まあ、東京には小笠原という超ド級の奥地オブ奥地もありますが、むしろ「そこ日本のどこよりも遠いだろ、しかも離島だし!」ということで、定石通り立川から青梅線臨時快速「ホリデーおくたま」号に乗った僕です。
早い人であれば夏休みの初日にあたる土曜日。普段の夏休みなら登山客やハイキング客で超満員なんでしょうが、この日はガラガラでもなく超満員でもなく、ちょうど座席が埋まるくらい。
そうか、君たちも僕と同じく百合子の発言を尊重して「東京から外に出ない範囲で人生を謳歌しよう」という賢い思考の持ち主なのだな!
的な妙な連帯感が生まれてきます。
終点の奥多摩駅で降りると、ホームからさっそく異様なものを発見しました。
うぉぉぉぉ、いきなり世界の終わり感!
そういえば奥多摩にシュールな巨大工場があったことをすっかり忘れてた!
奥多摩工業 氷川工場
奥多摩駅に着いたら、とにかく一番遠くまで行きそうなバスに乗ろう、と思っていたのですが、ホームで工場の写真を撮ってからバスターミナルに行ってみると、すでに「ホリデーおくたま」の同志たちが長蛇の列を作って並んでいました。
げっ、ちょっと密!
どうやら彼らは雲取山をはじめとする奥多摩の山々に登山するために、ここからバスで登山口の近くまで行くようです。
調べてみると行先はいくつかあるものの、1時間に1本くらいは遠くへ行くバスの便がありそうなので、奥多摩のまちなかを少し散歩してからあとの便に乗ることにします(結局バスは増便されて、登山客たちも密にならずに旅立っていきましたが)。
駅前から日原川を渡って奥多摩の中心商店街のほうに向かって振り返るとこの景観!
商店街の向こうに幾重にも連なる山々、その手前にあるシュールな世界の終わり的工場。
うぉぉぉぉ、かっちょえええ!
この工場は「奥多摩工業 氷川工場」。
工場マニアの間では奥多摩の聖地として知られている建物なので、もう少し近くに行ってみることにしました。
奥多摩の市街から日原街道に入ってしばらく進み、奥多摩駅側に戻る橋からの市街地方面の景観はこれ。
しかしそこから反対側を向くと、日原川の渓谷に面して巨大な工場が姿をあらわします。
この壮大なギャップが聖地と呼ばれるゆえんなんでしょうか。
群馬の安中駅前にある東邦亜鉛安中精錬所も山にへばりつくようにして建つ要塞のような工場として有名ですが、こんな渓谷にはありません。
僕の父親の実家の目の前に清流と石灰岩の山があり、その山肌に古い石灰工場がありましたが、これほど巨大ではありません。ただ僕が小さいときによく見ていたので、巨大なイメージが残っていて、これはそれに近いかもしれません。
一番奥、山襞の影に見えるこの建物も気になります。
この奥多摩工業、現在は石灰工場ですが、会社設立時の社名は奥多摩電気鉄道で、御嶽駅と氷川駅(現在の奥多摩駅)を結ぶ鉄道路線の敷設免許を保有し、のちに国鉄に譲渡したという歴史をもっているそうです。
残念ながら工場の敷地内には立ち入り禁止。
この時は気づかなかったのですが、実は裏道を行けばこの工場にかなり近づける公道があったのだそうです。残念!
奥大井湖上駅みたいな奥多摩湖の絶景
1時間ほどあとのバスに乗っていよいよ東京の一番奥へと向かいます。
観光地図をみていたら奥多摩湖の「ドラム缶の浮き橋」というのが気になったので、まずはその最寄り、小河内神社(おごうちじんじゃ)バス停で降りてみることにしました。
おおお、ホントに浮き橋だ!
これは麦山浮橋といってダム建設に伴い湖底に水没した対岸との通行路の代替として設置されたものですが、現在はドラム缶ではなくポリエチレンや発泡スチロールの浮子が使用されているようです。
湖の色も相まって、かなりナイスな感じのスポットに見えるのですが、なんと現在通行禁止。
なんでもこの小河内貯水池の水位上昇により、通行が危険となっているためだそうですが、ここは脆弱な作りなので今回に限らずよく通行止めになるようです。
この浮橋を見下ろす道を少し奥に行くと、対岸の湖面を眺望できる場所に出ます。
おおお、なんかどこかで見たことあるぞ・・・
そう、この景観は、秘境駅として有名な大井川鉄道井川線の奥大井湖上駅にそっくりじゃないですか?
奥多摩湖には列車は通ってませんが、この感じ、そっくりですよね?
なかなかやるじゃん、東京の一番奥!
わざわざ県境越えて田舎まで行かなくても、東京で十分楽しめるってことを、今回百合子が教えてくれたんですね!
東京の一番奥は山梨だった!
ということで再びバスに乗ってその先へと進み、さらに東京の奥地へ向かって冒険しようとしたところ、バスは峠を越えることもないまま、あっさり県境を越えて山梨県に入ってしまったのでした。
おいおい、ふつう県境越える前に峠とかあって、その手前でバス終点になるだろ。
ところが東京の奥多摩と山梨の県境にはそんな障壁は一切なく、僕は知らぬ間にあっさりと越境し、山梨県小菅村に着いてしまったのです。
バスの終点は「大菩薩峠東口」。
しかし大菩薩峠とか、どんだけ奥地っぽいんだよ!
さらに初めて知ったのですが、多摩川の源流も東京の奥多摩ではなく、山梨にあるのだそうです。
そんなわけで百合子ゴメン。
でももうここ、東京の仲間に入れちゃってもいいんじゃないか?
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