岡山の山あいの町に、なんだかぶっ飛んだ美術館があると聞き、ずっと気になっていました。
それはNagiMOCA(ナギ・モカ)と呼ばれる「奈義現代美術館」。
でも実際に行ってみると、なんとなく、どんな都会よりも先端を行く美術館が、そこにある理由がわかった気がしました。
奈義現代美術館がぶっ飛んでるワケ
「奈義現代美術館」があるのは、岡山県の津山駅から路線バスで約30分の奈義町(なぎちょう)というところ。
そこは鉄道の駅もなく、高速道路のICもなく、中心市街地さえどこにあるのかわからないような静かな町でした。
NagiMOCA(ナギ・モカ)と呼ばれる「奈義現代美術館」は、シンボルロードと呼ばれ、町の文化施設が集まるあたりにありました。
岡山の片田舎に、こんなぶっ飛んだ現代美術館があったのは全く知らなかったのですが、2016年の瀬戸内国際芸術祭に行ったとき、どこかの島でここのパンフレットをもらって、それ以来機会があれば行ってみたいと思っていたのでした。
見た目もカッコよかったけど、なにかその佇まいが独特で、魅かれるものがあったのです。
実際に来てみて初めてわかったのですが、この美術館の一番ブッとんでるところは、建物が先ではなくて、作品を先に構想して、それに合わせて美術館を設計した点。
一般の美術館では収集不可能な巨大作品をあらかじめ制作依頼し、その作品を収容する空間を作家と建築家が話し合って創りあげたのです。
なので、ここは建物と作品が半永久に一体化した美術館なのだと言います。
奈義現代美術館のアートはたった3つ
奈義現代美術館に行くとひときわ目立つこの大きな筒のようなものは「太陽」という作品でもあり、建物でもあります。
最初に見たとき、単なる筒のアートなのかと思ったのですが、ちゃんと中に作品があって、それに合わせてこの筒が作られたのです。
この美術館がもうひとつブッ飛んでるところは、常設作品が「太陽」「月」「大地」のたった3つしかないこと。
たった3つなので、早い人はメインとなる常設部分は10分もあれば鑑賞が終わってしまいます。
ちなみに下の写真がそのひとつ「大地 ≪うつろひ-a moment of movement≫」。普通に歩くと1分で通過します。
入場料は700円。
特別高いとも安いとも言えない微妙な額ですが、700円を10分で終わることも、半日楽しむこともできそうなところがスゴい。
ちなみに僕は全部で30分でした。
ま、凡人っぽい所要時間でしたね。。。
この美術館のメインディッシュは、この荒川修作+マドリン・ギンズの作品「太陽 ≪遍在の場・奈義の龍安寺・建築する身体≫」でしょうね(これがさっきの筒の中です)。
京都の龍安寺みたいな石庭が、円筒の部屋の両側に壁のように置かれています。
荒川修作+マドリン・ギンズといえば、岐阜にある「養老天命反転地」や、東京の三鷹にある「三鷹天命反転住宅」でも同じようなコンセプトの作品を残しているので、こうした「反転」作品は十八番なんでしょうね。
この日はちょうどいいモデルがいました。
こう見るとなんとなくこの空間の異質性がわかりますよね。
ちなみに僕の奈義の港の女と隠し子ではございません。
そしてこれが「月 ≪HISASHI-補遺するもの≫」。
スミマセン、僕にはよく理解できませんので解説は控えさせていただきます。
ただ、中秋の名月の夜10時に、この中に月の光が差し込んでくる設計になっているのだそうです。
この部屋にはべた~っと座りこんでいる先客の女子がいて、こういう人が700円で半日過ごせるのかも、と思ったのですが、もしかするとこのまま中秋の名月までここに住むつもりかもしれませんね。
館内にはこれら常設の3つのアートのほか、併設されたギャラリースペースもあり、そのときどきで現代美術の企画展を開催しています。
奇跡の町と呼ばれる奈義町
帰りのバスに乗るために、奈義町のまちなか中核施設のような「奈義町多世代交流広場 ナギテラス」に寄ってみました。
ここは地元の大人や子どもたち、観光客など、奈義町内外の人たちが集い憩える空間で情報・交通・交流の拠点になっています。
ここがまた、しゃれおつな空間なんですよ。
奈義町では劇作家・演出家の平田オリザさんに「教育・文化のまちづくり監」を依頼したりして、特に小中学生に対するコミュニケーション教育や文化資本の充実をはかっているのだと言います。
奈義町と言えば、独自の子育て応援宣言を出し、令和元年に合計特殊出生率2.95という日本トップクラスの数字を記録、「奇跡の町」として全国から注目を浴びている自治体でもあります。
もちろん持続的な子育て支援の政策が功を奏しているのは間違いないのですが、それに加えて「住みやすい」、「住んでいてワクワクする」といった要素もきっと関係しているのだと思います。
そういう意味では、この小さな町に奈義現代美術館のようなぶっ飛んだ施設があっても全然おかしくはないのかもしれない。
実際に奈義に来て、ようやくそれが理解できたような気がします。
<2019年4月訪問> 最新の情報は公式サイト等でご確認ください。
奈義現代美術館への旅
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