星空だけで多くの人を呼んでいる村があるという。
そこは長野県の南端、岐阜県や愛知県、静岡県と県境を接するあたりにある阿智村。
確かに田舎の山奥に行けば星はきれいだろうけど、わざわざそんな山深い里まで行かなくてもいいんじゃないか。
例えば、立山黒部アルペンルートに行ったついでに、標高2500メートルの室堂にある「ホテル立山」に泊まれば、うんざりするほどの星が瞬いているだろうし、日本最南端の波照間島に行って夜の海岸に出れば、南十字星にだって手が届くかもしれない。
そこまで気合を入れなくても、同じ長野でいえば八ヶ岳だって相当星がきれいだという。
それなのに、なんでわざわざ長野の阿智村なのか?
「スタービレッジ阿智」は、昼神温泉からはじまった
日本一の星空ツアーのベースとなっているのは、長野県の阿智村(あちむら)にある昼神温泉。
日本一の星を見に、阿智村いこーよ!
え、阿智村?どこそこ?星?星野リゾートなら行きたいけど…
みなさん、きっとこんな感じですよね?(うちの嫁さんと娘は当日までマジで星野リゾートに行くと思ってたらしいです…)
昼神温泉のある阿智村は名古屋から比較的近いため、もともとは中京圏の人々が慰安にやってくる温泉街でした。大きな旅館も多いため、バブルから愛知万博の頃にかけては大型バスが次々と押し寄せる、賑やかな温泉地だったといいます。
けれどもその後は多くのほかの温泉地と同様、団体客が減り、大型旅館はその規模を維持するのが困難なほど空室が目立つようになりました。
そんな時、この昼神温泉の有志が中心となって「日本一の星空プロジェクト」がスタートしたのです。
地域の町おこしを本気でやるためには「わかもの・よそもの・ばかもの」が必要だ、と言われますが、おそらくこの昼神にはその3者が揃っていたのでしょう。
「温泉地なのになんで温泉の良さを武器にしないんだ?」
「星を売り物にしたってこんな山奥に客なんか来るわけがない」
過去の成功体験に囚われている人々から、こうした反対意見が噴出したことは想像に難くありません。
しかし彼らはあきらめなかった。
数多くの失敗もあったが、それをことごとく新たな価値へと変えていった。
こうして今や「日本一の星空」を目当てに、年間10万人以上が訪れる人気の観光地となったのです。
ま、この話は僕がここで説明するよりも、この本を読んでいただければよくわかります。
日本一の星空ツアー会場は「ヘブンスそのはら」
日本一の星空ツアーの会場は、昼神温泉から車で15分ほどのところにある「ヘブンスそのはら」というスキー場。
山麓からゴンドラに乗ってその頂上に立つと、夜は文字通り満天の星に包まれます。
この阿智村は、もともと環境省に日本一星空が綺麗な村として認定されていた場所。
「ヘブンスそのはら」のゴンドラはかつては昼の営業しかしていなかったため、夜の星空の素晴らしさは誰にも知られていなかったのですが、プロジェクトのメンバーがそれに気づいたことにより、この「日本一の星空ツアー」が生まれたのです。
昼神温泉からはマイカーでも行けますが、主な旅館を巡回する乗り合いバスも出ていますので、冬場、雪道が心配な方も安心ですね。
また星空観賞に行くお客さんのために、各旅館では17時頃から夕食を用意することもできるので、1泊2食のプランでも問題ありません。
「日本一の星空ツアー」は、ヘブンスそのはらのゴンドラ往復乗車券と山頂での星空体験、山麓でのイベントがセットになったもの。
夏と冬、そして秋の雲海の時期ではツアーの内容が違いますが、僕が行ったのは冬、「Winter Night Tour」。
ゴンドラの定員の関係でツアーは時間帯別の完全予約制となっています。週末や繁忙期には多くの人が訪れますので、早めの予約は必須ですが、一度予約するとキャンセルはできませんのでご注意ください。
いよいよゴンドラに乗車、天空の楽園へ
ヘブンスそのはらに到着し、ゴンドラターミナルのエントランスに入ると、そこは星降るイルミネーションへの旅の始まり。
奥には「STARVILLAGE CAFE」があり、ゴンドラ乗車前後に休めるようになっています。
ゴンドラは定員8名ですが、グループごとで貸し切りにしてくれるので、カップルでもファミリーでも安心!
でも一人の場合どうするんだろ?
ひとり旅同士の男女を、一緒に相乗りさせてくれたりするのであれば、恋の星降る阿智の夜☆彡とかになるかもしれないけど、おっさん同士で相乗りとかだったら、やだな。
いつもはひとり旅も多い僕ですが、今回は家族で来てよかった!
ゴンドラは片道15分。
乗車直後こそ、ターミナル周辺の明かりがありますが、2,3分もすると外は明かりひとつない暗闇の世界となります。
もちろんそれは満天の星の下でゴンドラを走らせるため。
窓の外を見上げると、めちゃめちゃくっきりオリオン座(しかわからなった)。
まじヤバイ、オリオン座って、こんなに大きかったっけ?と娘が騒いでいます(娘、同上)。
多少標高が上がったからとはいえ、星座の大きさがそんなに劇的に変わることはないと思いますが、それくらい迫力のある星空であることは間違いありません。
ゴンドラの中には、小さなランタン型の電灯がひとつ灯っていますが、これは上から息を吹きかけると明かりを消すことができます。
カップルで行かれた方は、ゴンドラが中腹あたりに差し掛かったら、ぜひこの明かりを吹き消してみてください。
付き合い始めでまだなんとなくぎこちないふたりであれば、今宵はきっとこの星の洪水が、君たちがこの先一歩踏み出すための後押しをしてくれるはずです。
永年寄り添い、やや倦怠期のおふたりには、数年に1度、あるいは数十年に1度、かつ今世紀最後のBIGな清涼潤滑剤となるかもしれません。
万一、それほど親しくないのになんとなく一緒に乗っちゃったおふたりは…お相手がびっくりして騒いじゃっても大丈夫!もう一回上からフッと息を吹きかければ明かりはいつでも復活します。
天空の楽園、山頂にて
標高1400mの山頂に到着して、見上げるとこの大宇宙。
もっと高性能のカメラなら、肉眼に近い感じで表現できるのでしょうが、それでも僕のコンパクトデジカメでこのレベルに写るって、すごいことです。
星の鑑賞のため、山頂には余計な明かりがなく、ゴンドラの乗降所の先には暗闇が広がっています。
冬は一面の銀世界であることが多いため、立ち入り禁止区域が指定されていて、散策できるスペースは広くありませんが、持参した寝袋にくるまって、雪の上に寝ころびながら星空を見上げている人たちもところどころにいます。
冬のツアーでは山頂での滞在時間は15分。
ちょっと短いように感じますが、寒さを考えると、ちょうどいいのかもしれません。
夏はここで星空ガイドによる観察会が行われるのですが、冬はここではありません。なんてったってめっちゃ寒いですからね。
冬は山麓ターミナルでのイベントも
夏期間は山頂で星空観賞や天体観測などが行われますが、冬期間のイベントは山麓で行われます。
「MEGASTAR」と呼ばれる最新のプラネタリウムシステムを備えた天体ドームの中では、スタービレッジ阿智の目玉のひとつである星空ガイドによる観賞会が行われます。
天気が悪く、星空が見られなくても、暗闇ゴンドラ乗車体験やこうした星空観賞会のイベントを楽しむことができますが、「日本一の星空ツアー」ですから、やはりその成否が天候に大きく左右されることは間違いありません。
僕が行った日は雲ひとつない冬の夜空でしたが、もちろん天気が悪く星がまったく見えない日もあります。
季節により前後はありますが、この日のように満天の星が見られる確率は3割程度だと言われています。曇りで少しだけ星が見える日や、満月で星が見えにくい日も含めれば、もう少し確率は上がりますが、それでも運次第。
日本一の星空ツアーは異常な荒天時を除き、曇りや雨でも中止することはありません。
それはシーズンのオンオフや天気に関係なく、いつ来ても常にツアーに参加できる、という前提でこのプロジェクトを運営しているからなのだそうです。
星が見えなければ正直言ってがっかりでしょう。けれども星が見えなくても満足してもらえるような工夫を積みかさね、少しずつでもそのがっかりを軽減するよう、今も進化しているのが、この日本一の星空ツアーなのかもしれませんね。
星が見られなかったためリベンジで再び昼神温泉にやってくる方、(まるでオーロラ観賞のように)連泊して星が見られる日を待つ方、シーズンを変えて何度もやってくる方・・・この日本一の星空を見るためのお客さんの行動もさまざまなんだそうですよ。
さあ、あなたもぜひ日本一の星空を見上げてみませんか?
きっと日頃の行いの善し悪しによる、天からの運試しもできますよ・・・
<2019年12月訪問> 最新の情報は公式サイト等でご確認ください。
「スタービレッジ阿智」基本情報
日本一の星空への旅
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