長崎の平戸は日本の西の海上交通の要衝にあり、古くは遣唐使船が停泊し、のちに南蛮貿易の中心地として大いに繁栄した地。
日本の本土ではもっとも西にある町として有名だったので、ずっと前に一度だけちょと立ち寄ったことがあるのですが、その時の記憶はもうほとんど残っていなかったのです。
そんな平戸を思い出させてくれたのは寅さん。この平戸がロケ地となった「男はつらいよ 第20作、寅次郎頑張れ」を見ていて、もう一度ここに行ってみたいなと思ったのです。
そんなわけで20年ぶりくらいに平戸に再訪した日は、ときおり細かな雨が降る晩秋の日曜日。晴れ男の僕にしては恨めしい1日だったけど、平戸はやさしい雨の似合う町のような気もしました。
平戸の玄関口、平戸港
平戸は長崎県の西北端、九州本土と平戸瀬戸を隔てて南北に細長く横たわる平戸島と、その周辺の約40の島々から構成されています。現在は平戸大橋が開通したため、本土とは陸続きになっていますが、かつては船がないと渡れない島でした。
平戸港は九州本土からのバスターミナルも兼ねているほか、周辺の島々への航路の起点として今でも平戸の玄関口となっています。
実は今回、この平戸港からフェリーに乗って行ってみたい場所があったのでした。
それは平戸周辺の有人島のひとつ「平戸大島」。
この大島には神浦地区の町並みと言われる江戸時代からの木造建築が軒を連ねる古い通りがあり、そこを歩いてみたかったのです。
ところが桟橋に行ってみると、こんな看板がありました。
まあ、時節柄しかたないかな、とは思うけど、日本の西端のこんなところにまで影響あるんだな、と改めて思いました。
大島に行けなくなり時間にも余裕ができたので、港の周辺をブラブラと歩いていると平戸オランダ商館がありました。
平戸オランダ商館は長崎の出島よりも前に建てられ、平戸が我が国唯一のオランダ貿易港として賑わった当時の史料や貿易品などが展示されていますが、この日はまだ朝早く開館前でした。
このオランダ商館の名前がついた通りが、平戸の古い町並みが残る「オランダ商館通り」。
素晴らしい町並みですね。こんなに素敵な町だったかな、平戸って。
通りにはキリシタンにちなんだ作りだったりレトロなお店が並びます。
この通りを歩きながら、まずは平戸を代表する景観の場所へと行ってみます。
寺院と教会の見える風景からザビエル教会へ
平戸の代表的な景観といえば「寺院と教会の見える風景」。
これは平戸市街地の高台にある「平戸ザビエル記念教会」と、周囲の寺院が織りなす西洋と東洋が融合した空間として有名な場所です。
オランダ商館通りから続く宮の町本通りに入ってしばらく進むと「寺院と教会の見える風景」と誘う看板があり、坂を登るとやがて見えてくるのはこの景観。
寺院屋根瓦の向こうに教会の尖塔がそびえたっている様子は、この平戸にしかない景観だと言われています。
僕個人としてはこれに似た景観として大阪・富田林の「寺院の向こうにPLタワー」があると思うのですが、さすがにそれはちょっと無理があるでしょうか?
坂の途中にある瑞雲寺とその上にある光明寺が高台の頂上付近にある平戸ザビエル記念教会と交差しているため、このような異国情緒あふれる景観が誕生したのです。
寺院の白壁沿いの坂道を上りつめるとやがて見えていた「平戸ザビエル記念教会」に到着します。
この教会は1931年に現在地に建設された比較的新しい教会ですが、高台にあり町の至るところから見えるため平戸のシンボルとなっています。
ちなみに教会から寺院側を見下ろすとこんな感じになります。
寅さんが自転車で駆け巡った平戸の町
この平戸は「男はつらいよ 第20作、寅次郎頑張れ」で寅さんが暮らした町として登場しています。
寅さんの家に下宿していたワット君(中村雅俊)が思いを寄せていた食堂の娘(大竹しのぶ)にフラれ、失意のまま戻った故郷・平戸に様子を見にやってきた寅さん。
そこでワット君の姉(マドンナ:藤村志保)にひとめぼれした寅さんが平戸に住み着いてしまうというストーリーで、昭和50年ころの活気ある平戸の町が描き出されています。
マドンナが切り盛りしていた土産店があったのは「歴史の道」と呼ばれる平戸港から松浦史料博物館を結ぶ道。
この歴史の道の突き当りにあるのが下の写真の左のお店。今はパン屋さんになっているみたいですね。
寅さんはマドンナのお土産店を手伝うことになり、鼻歌交じりに自転車で平戸の町を駆け巡るシーンがありますが、その時渡っていたのがオランダ橋と称される幸橋。
この橋を渡ると平戸城が山の上に現れます。
撮影当時は本土と平戸島を結ぶ平戸大橋が開通する前だったのだと思います。
寅さんもワット君も映画の中では船で平戸港に到着していましたが、ちょうど映画の完成と同時くらいでしょうか、封切の数か月前に平戸大橋が開通したようで、この作品は船で平戸に渡っていた最後の時代が描かれているのかもしれませんね。
平戸大橋から田平天主堂へ
平戸には「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として世界遺産に登録された「中江ノ島」や「春日集落と安満岳」(平戸の聖地と集落)がありますが、午後からは時折細かな雨が落ちてきたため、奥へと行くのはあきらめて、平戸大橋を渡って本土側に戻ります。
バスで平戸大橋を渡り、本土側の最初の停留所で降りると田平公園があり、そこから平戸大橋が一望できました。
そのまま30分ほど歩いて田平天主堂に向かいます。
田平天主堂は世界遺産の構成資産ではありませんが、国指定重要文化財となっている赤煉瓦の壮麗な教会堂。
長崎の教会建築で名高い鉄川与助の設計施工ですが、多彩なレンガ積み手法やススを塗った黒レンガによる装飾など、鉄川与助のレンガ造教会の最高峰とも言われています。
こうした絵画を思わせるような色鮮やかなステンドグラスが何枚もあります。
ルルドの傍らには信者が眠る広い墓地があり、まるで日本を遠く離れた異国の地のような雰囲気でした。
教会にいる頃から再び細かい雨が舞いはじめ、最寄りのバス停までの30分は秋の霧雨に濡れながら歩きました。
コロナウィルスと天気の影響で今回行けなかった場所も多かったので、いずれまた平戸にリベンジに来ることがあるでしょう。
次はもう雨は勘弁してほしいけど、この日の雨はなんだか優しくってちょっとせつない気がしました。なぜはかよくわかりませんが。
<2020年11月訪問> 最新の情報は公式サイト等でご確認ください。
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