僕が高校時代に通った喫茶店が、いつの間にか知る人ぞ知る昭和の名物レトロ喫茶になっていました。
おまけにそこは友達の一族がやってるお店で、さらに僕が初めて女の子からナンパされた店だったりするので、驚きもひときわです。
そんな高崎の「喫茶コンパル」に久しぶりに行ってみたお話です。
人生初ナンパされた店「コンパル」
僕が最初に「コンパル」のドアを開けたのは、高校1年生の初夏。
当時、僕は高崎市内の高校に通っていたのですが、そこはバラの香匂う男子校でした(当時の群馬の公立高校は、男女別の高校が多かったのです。うちの高校は未だに男子校ですが!)
そんなわけで、よくとなりの女子高と「交流会」というイベントをやるのが恒例でした。
なにを交流するのかよくわからないのですが、日米貿易摩擦とか、大江健三郎の新作について議論を交わすのかと思って参加してみたら、共通の友達を介して男子と女子が4対4とか5対5くらいで喫茶店でお茶を飲みながら相性の良き相手を見つけるというイベントのようでした。
高校生合コンとかに名前を変えろよ!
その会場だったのがコンパルだったのです。
当時のコンパルはビルの2フロアを占める広くて明るいお店で、10人くらいの高校生がテーブルを囲むくらい余裕という感じでしたが、文学とか政治経済の話をするつもりだった僕はすっかり憤慨して、わりと好みだった2,3人の女子の名前だけをメモして家に帰ったのでした。
その夜のこと。
なんかかわいい声の女の子から電話よ。彼女できたの?ひゅーひゅー
突然家に電話がかかってきたのです。当時はまだ電話は一家に一台。彼氏彼女の家に電話をかけるのは勇気がいる時代でした。
あのー、私○○と申します。今日コンパルにいらっしゃいましたよね?
名前を聞いても今日交流会にいたメンバーには覚えがありません。
あのー、私、今日コンパルでアルバイトしてたんですけど、今度会ってもらえますか?
まさかのコンパルバイト女子からのナンパ!
彼女は交流会をしていたメンバーと同じ高校の友達で、誰かから僕の連絡先を聞いたようでした。そんなに電話番号教えまくってたかな。大江健三郎の話してたつもりだったんだけど・・・
説明ムダに長くなったけど、特にモテ自慢ではありません。僕にとってコンパルは、人生で初めてナンパされた場所だった、ということが今日の重要なポイントのひとつだということです。
「絶メシロード」でコンパルが?
高校卒業後に群馬を離れた僕は、その後コンパルに寄る機会もなかったのですが、昭和、平成、令和と時代は移りかわり、コンパルはいつの間にかレトロな名物純喫茶としての称号を得るほどになっていたのです。
僕がそれを知ったのは、全国のレトログルメをめぐるドラマ「絶メシロード」でコンパルが登場したことがきっかけ。
店内の雰囲気は当時と変わっているような、いないような、という感じでしたが、ソファとかいすは確かに見覚えがあるし、お店の看板の不思議な雰囲気の女性と特徴のあるロゴ、食品サンプルのケースなんかは当時と全く変わってないような気がしました。
それになによりマスターの顔が、僕の友達に似てる!
実はこのお店は僕の高校時代の友達の一族がやっているのです。どうやらこのビルは友達の祖父が持っていたらしく、そこで別の人が経営していた喫茶店を友達の叔父さんが引き継いだのだそうです。
当時コンパルは高崎駅前にも店があって、そっちのほうは友達の両親が経営していました。残念ながらその友達は喫茶店経営に全く興味を示さず、とっとと歯医者になっちゃいましたが。
そもそもこの絶メシロードという番組は、高崎の「絶メシリスト」というローカルグルメサイトから着想されて始まったのだそうです。
これは高崎市内の絶滅危機にある「安くてうまい絶品グルメ」を紹介し、その存命や後継者探しを目的としたサイトですが、もちろんその中にもコンパルは登場しています。
たまに帰省して高崎の街を歩いた時に何度かコンパルの前を通ったことはありましたが、そういえばもうずっとそのドアを開けたことはなかったことに気づいたのです。
ただいま、コンパル!
そんなわけで所用で高崎に泊まった日の翌朝の開店と同時に、晴れて都会のナイスミドルに変貌した姿を見せるため、コンパルに凱旋訪問することにしました。
この階段を上るのも若干緊張します。
絶メシリストのシールが貼られたドア。開けるのにちょっと勇気がいります。
ただいまぁー、コンパル!
あれ、なんか開店を待ってきたようなタイミングだねぇ
店を開けたばっかりで、マスターもすぐにお客さんが来るとは想像していなかったのでしょう。
当時は多くのお客さんで賑わっていたので、マスターもいちいち僕の顔なんか覚えているはずはないのですが、なんか気合いを入れて訪問してるのがバレてしまったようでした。ただいま、なんて言えなかったけど。
ドラマの中で見たとおり、現在のコンパルの店内はたくさんの植物とたくさんの絵であふれかえっていました。
そういえば僕の友達も絵が好きだったので、こんな絵とか書いてそうな気がします。これはたぶん違うと思うけど。
絶メシロードで主演の濱津隆之さんが座っていた窓際の明るいテーブルに座ります。
やわらかいビニールのファイルにおさめられたメニュー。そして例のコンパルのフォントと不思議な女性の顔。
コーヒー350円、トースト300円、パフェ600円。
正直、料金は当時とほとんど変わっていないような気がします。
ホテルで朝ごはんは食べてきたんだけど、コーヒーだけじゃなんだか物足りないような気がして、トーストも頼んでみると、食パンがまるまる2枚出てきました。
おなかいっぱいだよ、マスター。
今、こうして見ると、ここで10人もの高校生が合コンやってたようなお店には見えないですね。
高校生の時によく来てて、久しぶりにお邪魔したんですよ
そりゃ懐かしいねえ。今日はどちらから?
東京から実家に用事があってちょっと戻ってきたんですよ
ここでアルバイトの女の子にナンパされたことも話そうかと思いましたが、当時はきっとたくさんのバイトがいたので、マスターも彼女の名前なんか覚えていないでしょう。今はもう奥さんとふたりきりでこのお店を切り盛りしているようです。
マスターとたわいもない話をしていると、若いカップルが来店して珍しそうに店内を見まわしています。
きっとネットやSNSでコンパルを見て、わざわざ遠くからやって来たのでしょう。僕はそろそろお別れの時間のようです。
花いっぱいに見送られて階段を下りながら、まさに絶メシだな、と思いました。
マスターは僕らの親の世代なので相当な高齢でしょう。もうとっくに引退してもいい歳ですが、残念ながら友達の一族に跡を継ぐ人間はいなそうです。
お客さんが喜んでくれるから続けてるんだよ
取材でも言っていたマスターのその言葉に嘘はないでしょう。このお店がまだ残る限り、これからは僕もその一人になろうと思いました。
<2023年7月訪問> 最新の情報は公式サイト等でご確認ください
高崎「コンパル」への旅
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