伊根の舟屋というのは、関東ではそれほど知られていないと思うのですが、関西ではやはり有名なのでしょうか?
というのも旅の途中、大阪や神戸で友達と飲んでいて、これから城崎方面だの若狭方面だの、要は大阪から北の方へ向かうと話すと、伊根の舟屋には行かないのか、と尋ねられたことが何度もあったからなのです。
それがたまたまなのか、それとも「大阪から北に行く=伊根の舟屋はゴールデンルート」という常識が出来上がっているのかはわかりませんが、そんなこともあって妙に気になっていた伊根の舟屋に、初めて行った時のお話です。
伊根の舟屋は「海の京都」
「海の京都」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
一般的に京都というと、千年の都である「京都市」をイメージされる方がほとんどでしょうが、実は京都府は南北に長く、北には日本海に面した多くの美しい町があるのです。
そこで、天橋立がある丹後半島や舞鶴など、京都の北にある地域を総称して「海の京都」と呼んで、もう一つの京都としてPRしているのです。
伊根は丹後半島の先端近くにあり、まさに海の京都のど真ん中。京都北部の都市、宮津から天橋立を経由する路線バスが唯一の公共交通手段です。
僕が宮津駅からバスに乗ったときは観光客らしき姿は見えなかったのですが、天橋立駅に着くと、さすがに日曜日だけあって2,3組の観光客らしきグループが乗車してきました。
すると車内の前の方に座っていたガイドさん(今ふうに言うとキャビンアテンダント?)のような女性がやってきて観光客か、と尋ねてきます。
そうだ、と答えると、伊根の舟屋に行くのか?と聞いてきます。
そうだ、と答えると、僕の答えに大変満足したのでしょうか、彼女は満面の笑みをたたえて、こう提案してきたのです。
お客様、それではアンケートにお答えいただいてもよろしいでしょうか?
よろしければモニターツアーということにさせていただき、伊根の舟屋までのバス乗車券をご提供します。
もちろん断る理由はありません。
なんでもこれは伊根町のさらなる活性化のためのモニター事業か何かだ、ということで、まずはバスを無料にしてたくさん来てもらおう、さらにアンケートで消費者の声を拾って、改善に生かそう、ということらしいのです。
どこから来ましたか、に始まって、伊根を何で知りましたかとか、バスは高いですかとか、身長・体重・スリーサイズと若い頃に似ていると言われたアイドルは誰でしたか?とかおねーさんに個人的に聞かれたような気もしますが、何も知らないでやってきた僕にとっては、まあ、ラッキーなことでした。
僕と同じように、うしろの方で、なんか得したわ、と言っていたおばちゃんグループもいて、バスはおだやかな若狭湾の景色を右手に見ながら、ささやかな幸せ気分も一緒に乗せて走るのでした。
ちなみに、2020年5月現在、宮津駅から伊根湾めぐりのバス停までのバス代金、片道400円。
当時の正規料金は800円か900円くらいしたような気がしますので、ずいぶん安くなりました。
これもあの時のモニター事業の声などが反映されているのかもしれませんね。
高貴な僕は、おねーさんの満面の笑みを曇らせてはいけない、と思い
バス代800円であなたの笑顔が見られるなんて、安すぎて泣ける。5万円でも価値がありますっ!
と答えたので、きっとうしろのおばちゃん軍団が
たっか!もうちょっとまけてーな
とか書きまくったおかげだと思います。
伊根の舟屋はここだけの独特の建物
さて宮津の駅を出て1時間ほどで、伊根の舟屋が並ぶ通りに到着します。
伊根の舟屋とは、伊根湾に沿って建ち並ぶ約230軒の民家で、1階が船のガレージ、2階が居間となった独特な建物。
海辺ぎりぎりに建ち並んでいるので、海から眺めると、まるで海に浮かんでいるかのように見え、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。
海側から見るとこんな感じ。
道路側からみるとこうです。
伊根湾巡りの遊覧船が日中30分おきに出ていて、海の上から伊根の舟屋を眺めることができるので、さっそく乗ってみました。
船に乗ると、最初に見えてくるのは、カモメの大群です。
まあ、よくありがちなパターンなので、僕はかっぱえびせんをあげたりはしません。
海に放り投げて、ナイスキャッチ、とかいうのは子供かおねーちゃんに任せておきます。
ひとり旅のナイスミドルがけっしてやってはいけないことの一つですからね。
さて、しばらくすると舟屋群が見えてきました。
舟屋は全体が海側に前傾して、船を海から直接格納するため石敷きのスロープが設けられています。
1階のガレージには海水が2mほど入り込でいて、そこから海に船を押し出し、漁へと出かけていくのだそうです。
途中にあったのは海上自衛隊の戦艦でしょうか、船内を一般の人々へ公開しているようで、ちょっと賑わっているのが見えました。
僕が乗った遊覧船は比較的大きいので、家の中から小舟でいざ、出発!とかできないのですが、そんなコースがあったら面白いでしょうね。
伊根は海上タクシーも盛んなようなので、もしかしたらそんなこともできるかもしれませんが。
伊根の舟屋は寅さんのロケ地でもあった場所
そういえば伊根の舟屋は「男はつらいよ」の第29作「寅次郎あじさいの恋」でマドンナのいしだあゆみの生まれ故郷という設定で登場していました。
最終の船を逃して帰れなくなった寅さんが、いしだあゆみの家に泊まることになると、夜中、独り身の彼女が寅さんの寝床に忍び込んで・・・
ま、それでも何も起こらないのが寅さんいいところなんですけどね。僕と同じで。
京都と言えども北部の寂しい漁村の伊根といしだあゆみの幸薄そうなキャラが妙にマッチした作品でした。
これが現在の伊根の町並み。
かつては海側に船のガレージと作業場の舟屋、向かいの山側に母屋があり、今、道があるところは各戸の中庭だったそうです。
「海の京都」は全部を回ったわけじゃないからまだ何とも言えないけど、伊根の舟屋は関西人が「北の方のゴールデンルート」と思うのもなんとなくわかるような気がしました。
<2012年9月訪問> 最新の情報は公式サイト等でご確認ください
伊根の舟屋の基本情報
伊根の舟屋への旅
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