静岡の大井川鐵道にはJR東海道線の金谷から千頭までの約40キロを結ぶ大井川本線と、千頭から井川までの25.5 kmを結ぶ井川線の2つの路線があります。
よく知られているのは大井川流域の茶畑の中をSLや機関車トーマスが走る大井川本線のほうですが、実はその先、大井川の深い峡谷に沿った山岳地帯を日本唯一のアプト式電車でゴトゴト走る井川線が素晴らしいのです。
今回はその井川線と、絶景秘境駅として名高いを奥大井湖上駅をご紹介しましょう。
絶景路線のスタートは千頭駅から
JR金谷駅からのびる大井川本線の終点は千頭駅。
SLを含め、金谷発のすべての列車はここが終点で、ここから先が「南アルプスあぷとライン」と呼ばれる支線・井川線となります。
千頭駅の構内には、この先の井川線を走る赤い小さな機関車と客車が並んでいます。
井川線の車両には窓もあり、厳密にはトロッコ列車のくくりではないのですが、大きさは黒部峡谷鉄道のトロッコとほぼ同じサイズで、窓ガラスはホームに入線時からすべてフルオープンになっているので、ほぼトロッコみたいなイメージでいいと思います。
機関車に引かれた小さな車両が遊園地のおもちゃ列車のようにゆっくりと動き出し、キーキーと車輪を軋ませながら千頭の街なかを通ると、みんながこちらに向けたスマホのシャッターを押しています。
写真撮るだけじゃもったいない。。。乗ればいいのに。
千頭の町を抜けると大井川の奥に南アルプスの山々が見え、南アルプスあぷとラインはスイスの山岳鉄道のように森林の中の急勾配をズンズン登っていきます。
いやー、やっぱり来てよかった。
素晴らしいぞ、南アルプスアプトライン!
井川線には僕も20年くらい前に一度乗ったことはあるのですが、たぶんこんなに天気がよくなかったんでしょう。なんだかはじめて見た景色みたいな新鮮さがあります。
土本駅の手前で見える大井川と、寸又峡温泉の方から流れてくる寸又川との合流地点。
左が大井川で右が寸又川ですが、全然色が違いますね。
大井川の方はこの上流にいくつもダム湖があるため緩やかな流れなのですが、寸又川の方は途中にダムのない支流をいくつも集めて流れてきているため、濁った荒々しい色をしているようです。
日本唯一の「アプト式」鉄道区間へ
千頭を出て約40分、列車は「アプトいちしろ」の駅に到着します。
ここから次の「長島ダム」駅までが、この井川線の別名「あぷとライン」となっている、日本唯一の「アプト式」鉄道区間なのです。
アプト式というのはスイスのカール・ロマン・アプトさんが発明した、急勾配を上るための鉄道システムの一種。普通の車輪では登れないような急勾配を、坂道専用の歯車が付いた機関車を補助にして運行するというもの(下の写真の線路の真ん中のギザギザ)。
これがそのアプト式の機関車です。
南アルプスあぷとラインのアプトいちしろ駅から長島ダム駅間は、90パーミル(1000mの距離で90mの高低差を登る)という日本の鉄道路線で最も急な区間となっているので、この区間には必ずアプト式機関車2両が増結されるのです。
アプトいちしろを出発して、アプト式機関車は線路についた歯車をガタガタ言わせながら日本最急勾配区間をゆっくりと進みます。
乗り心地も特に今までと変わらず、坂もめちゃくちゃ急なところを登ってるな、という感じはしません。
しかし長島ダム側から今登ってきた区間を振り返るとこの通り!!
駅名にもなっている通り、アプト式区間の最後に車窓に現れる長島ダムは大井川をせき止めたダム湖で、接岨湖(せっそこ)とも呼ばれています。
長島ダムでアプト式機関車を切り離したあとも、次々とハイライトが。
ダム湖となってエメラルドグリーンの水を並々とたたえた大井川に沿ってさらに進むと、赤い大きな橋に差し掛かります。
これが接岨湖にかかる レインボーブリッジと呼ばれる橋。
なんとこの橋の真ん中にあるのが奥大井湖上駅です。
絶景の秘境駅として人気の奥大井湖上駅
「奥大井湖上」という名の通り、この駅があるのは湖の上。
正確には湖につき出た半島の上のわずかなスペースに設けられていて、駅の周りには民家どころか道さえないため「秘境駅」などと呼ばれてますが、そもそも観光用に作られた駅なので、本当の意味での秘境駅とはちょっと違うかもしれません。
ホームには『Happy Happy Bell 風の忘れもの』という幸せを呼んでくれる鐘や、恋人たちが愛を誓いながら鍵をかけるための『愛の鍵箱』などが設置されています。
どうやら「湖上駅で愛を誓うと、ゴールインできる確率がすごく高い!」というパワースポットらしいです。
うーん、全然秘境駅じゃないじゃん・・・
また駅から少し登ったところには「レイクコテージ奥大井」という駅周辺唯一の建物があり、1階には休憩所とトイレ、2階は展望台があります。
しかし(たとえエセ秘境駅であろうとも)この駅が素晴らしいのは、湖の対岸の山の中腹から眺めた全景。
しかししかししかし、この撮影スポットまで行くには、このレインボーブリッジを歩いて湖の上を渡って、対岸まで行かなくてはならないのですよ。
この駅と下界を唯一結ぶ道は、なんとこの鉄橋の線路わきの通路のみ!
いや~な場所です、高所恐怖症の人間には。
それでも行くしかありませんね、ここまで来たら・・・・・
絶景秘境駅の撮影スポットへ
ひーひー言いながら鉄橋を渡り終わったあと、道路に続く高台に登って振り返ると、こんな感じ。
鉄橋の先にある、ちょこんと突き出た幅20~30mほどの半島の上が駅です。
鉄橋の先から結構な長さの階段を上ると、ようやく一般の道らしきものが現れ、ようやく下界に通じたことになります。
秘境駅のビュースポットはさらにそこから少しだけ上ったところ。
駅の対岸の1車線の舗装道路沿いに、遮る木々がなく湖を見下ろせる場所があるのです。
駅から歩き始めて約15分、そのロケーションはこんな感じ。
これが、人里離れた湖上の秘境駅、「奥大井湖上駅」の全貌です。
列車が来るまでしばらく待っていると、何組かの人たちが同じようにカメラを持ってやってきましたが、あまり鉄っちゃん的な人は見かけず、熟年の夫婦だったり、孫連れの3世代家族だったり、ごく普通の観光客っぽい感じでした。
やがてガタガタと音を立てながらあの赤い列車がレインボーブリッジの上に現れます。
この日は強い西風のため、山の中でもそれなりに風が吹いていて、列車でこの橋を渡るのも結構怖かったのです。
湖上駅に列車が到着します。
これは確かに絵になりますね。
駅から歩いて15分程度でこんなに素晴らしい鉄道風景がみられるところはなかなかありません。
撮影が終わったら奥大井湖上駅まで戻ってもいいのですが、このスポットから歩いて20分強で隣の接阻峡温泉駅まで歩けるので、橋が怖い方はそこから列車に乗ってもいいかもしれません。
南アルプスあぷとラインは、接岨峡温泉駅から先も終点の「井川」まで続いています。かつてはその井川駅から静岡駅まで山岳路線バスが走っていましたが、現在は廃止されているため、帰りは大井川鐡道で折り返して戻ることになります。
途中の奥泉駅からバスに乗って寸又峡温泉に泊まるのも大井川鐡道の旅の醍醐味のひとつです。
大井川鐡道は、千頭から先の「南アルプスあぷとライン(井川線)」が面白い!を忘れないでくださいね。
<2016年5月訪問> 最新の情報は公式サイト等でご確認ください
奥大井湖上駅の基本情報
住所:静岡県榛原郡川根本町犬間
コメント