山梨県が世界に誇る(というほどでもない)ワンダースポット、「コモアしおつ」に行ってきた。
何がそんなにスゴイかって、山の上に高野山にも匹敵する(というほどでもない)巨大な空中都市があると聞いたからだ。
そんでもってふもとのJR四方津駅からそこまで登るために世界一の長さに匹敵する(というほどでもない)エスカレーターがあるという。
いいじゃないか、コモアしおつ。
巨大な空中都市というからには、出玉ジャンジャンバリバリのパチンコ優良店がきっとあるだろう。
夕方6時まではジョッキ1杯100円、赤字覚悟の涙のサーヴィス実施中の格安居酒屋もあるに違いない。
さらには地上では見たことのないウスウスの空中ファッションをまとった女性が眩しい、ムフフなお店とかもあるかもしれない。
それに世界一長いエスカレーターの下から山上のほうを望めば、爽やかな新緑の山々が見えるかもしれない。
たまたま運悪くミニスカートの女性とかが乗っていたりすると、美しい自然を満喫しているつもりなのに、美しい太ももなんかが見えてしまうかもしれないが、それはそれで仕方がない。
ということでさっそく行ってみることにしたのである。
中央線の羽賀研二と熟女軍団
まずはぜんぜん関係ないが、往きの中央線でたまたま前に座っていたグループの人間分析もしたので、合わせて報告する。
特に興味があったわけではないが、人間観察検定準一級の私くらいになると、自分の意思とは関係なく、勝手に脳みそとか八丁みそとか手前みそとかが反応し、ターゲットの人間関係を即座に分析してしまうのである。
まずこのグループは、男ひとりと女3人である。
これは人間観察検定準一級の私からしても、非常に珍しい組み合わせである。
しかも男は羽賀研二に似た、相当なイケメンである。
それに加えて女性陣が梅宮アンナレベルの美女たちだったりしたら、誰かが持ち込んで中央線の車内に立てかけてある折りたたみ自転車でも蹴っ飛ばして帰ろうかと思ったが、3人ともその母、梅宮クラウディアのほうが年齢的にはやや近い熟女たちだったので、まあ許してやろう。
羽賀研二はワインボトルやフランスパンの先っちょなんかをさりげなくチラ見せさせたバッグを持っている。
おいおい、日曜の午前の中央線大月行きでそんなものを持ってちゃダメだろう。
小汚いバックパックを背負った熟年ハイカーとか、甲斐駒ケ岳の頂上でアルプス一万尺を唄うのが人生の至福である渡辺武57歳(仮名・年齢も推定)とか、車両の最前面に張り付いて、上りの特急あずさがすれ違う時刻が一分たりともダイヤグラムと狂っていないことに満足して、ひとり笑顔でうなずいているような鉄道ファン以外は、こんな電車に乗ってはいけないのである。
(ジーンズ姿で本を一冊だけ持って、まるで代官山の蔦屋書店で午前中の読書をするような格好で乗ってしまった私だけは、無農薬有機栽培で育った野菜のように本当に素直な格好よさなので、JR 大月駅長から特別に許可されている)
話を戻すと、要するに羽賀研二は、山登り、ではなくて高原の別荘に、しかも日帰りで行くような雰囲気なのである。
しかも普通ならいかにもいやな奴っぽく思えてしまうのだが、今のところ実に爽やかなのである。
そして注目すべきは、その彼を囲んでいる3人の熟女である。
3人の中で一番こぎれいに着飾っているのは、一番年齢が高いと思われる女性。羽賀研二の右側にピタっとくっついて笑顔でご機嫌な様子だ。
一方、羽賀研二の左隣は、一転、ほぼノーメイクの女性。年齢が年齢なので、ノーメイクのお肌はちょっと残念な感じなのだが、もともとの作りは悪くない気もする。
もったいないぞ、左隣熟女。白髪とかもちょっとは染めろよ!
3人の中で私が一番気に入った、もとい、羽賀研二が、このあと高原の別荘で霧に包まれて迷子になってしまい、二人しか入れない洞窟で朝まで助けを待たなくてはならなかったとしたら、きっと選ぶと思われる女性は、眼鏡をかけた、ちょっとローバー美々が入ったような熟女だった。
彼女だけが羽賀研二と離れて座っていた(間にこぎれい熟女が入っていた)が、胸元をやや不自然にはだけさせ、そこからスペシウム光線のような必殺ビームを発して、2人に負けず劣らず彼を捉えているようだった。
なんなんだ、羽賀研二とその取り巻き。
これから4人で別荘でワインパーティーでも開くのか?
お前らいい年こいて昼間っから酔っ払っちゃったふりとかするんじゃないのか?
ベッドルームが3つくらいある大きな別荘だったりしたら許さんぞ。
その時の気分で順番考えよう、とか、そんなの全然うらやましくないぞ。
そんなことを考えていたら、肝心の四方津駅で降り忘れそうになり、慌てて電車を飛び降りた。
四方津駅から空中都市へ
駅のホームから、山の上の空中都市に向かう半円の透明なシェルターがどーん、と見える。
おー、これから太もも注意報発令中という荒天の中を、逃げずに進まなければならないのか、と思うと自然と胸が高鳴る。
「近隣住民のご迷惑となります。お静かにお歩きください」
空中シェルターに向かう階段に、こんな看板がたくさん立っている。
空中都市と地上都市ではちょっとした戦争が起こっているのか?
しかし日曜日の午前10時は、いったん休戦期間中らしく、国境兵士の姿もなく、パスポートも不要であった。
おまけに、なんとエスカレーターまで止まってしまっているではないか!
いくら太もも注意報発令中だからと言って、それはないだろうコモアしおつ。
わかったよ、運悪くミニスカートの女性がいたら、潔く下を向くよ。神に誓ってそうするから動いてくれよ。
私のそんな願いもむなしく、エスカレーターはやっぱり動かず、無意味に天高くまで延びている。
仕方なく、エスカレーターのすぐ横に設置されている斜行エレベーターに乗る事にする。
これなら望みもしないのに美しい太ももを下から見上げてしまう、というリスクはない。
しかし、エレベーターという密室に、生太ももとともに数分間閉じ込められてしまうという恐れはある。
頼むぞ生太もも、それだけはやめてくれよ、と思って一人でエレベーターに乗り込むと、駅のほうから急いで階段を駆け上がってくる気配がする。
まずい。生太ももだったらどうしよう。
念のためドアの「開」を押したまま、相手を待ってみる。
・・・・・・・・・・
やがて汗だくのおっさんが全速力で角を曲がり、こっちに向かって駆け込んできた。
おっさんと僕を乗せたエレベーターは、音もなくするすると山を斜行し、地上からみるみると離れてゆく。
エレベーターの中には高度位置を示すランプがあり、20、40、60(m)・・・と進んで行く。
TVのモニターにも現在高度が示されている。
さすが最先端の空中未来都市である(いつの間にか私の想像力は「未来」まで付け加えてしまっていた)。
これぞ「コモアしおつ」の全貌
3分ほどでエレベーターが山頂へと到着すると、見渡す限り戸建て住宅地が広がっていた。
山頂の終点駅の前にスーパーが1件、クリニックが1件、駐在所、そして洗濯屋ケンちゃんがあるほかは、一面戸建て住宅である。
ムフフな感じの店どころかパチンコ屋や居酒屋でさえ、どこにも気配がない。
どうしたんだ、コモアしおつ。
日本のマチュピチュではなかったのか?
おっさんとエレベーターで箱詰めになりながら、毎日こんな山上から東京まで通っている人間がほとんどだというのに、日曜の楽しい余暇を過ごす娯楽がなにもなくていいのか?
ちょっと散歩のついでに、月30000円のお小遣いから、なけなしの2000円だけパチンコ勝負してみようと思っている貧乏父さんはどうするのだ?
夜中にお酒が飲みたくなったり、ムフフな気分になっちゃったりしたら、この空中都市の人間はどうするんだ?写経とか写生でもして煩悩を追い払うつもりか?
どこまで行っても延々と続く住宅街を、あてもなく歩きながらそんなことを考えていると、羽賀研二と酒池肉林な熟女たちがエレベーターの終点の方から歩いてくるのが見えた。
そうか、やはりやつらは空中煩悩都市の人間だったか。私の人間分析はさすがだ。そんなことは最初からすっかりわかっていたのだ。
やつらもきっと煩悩を追い払うために、私の力が必要だろう。
そこで私もちょこっと混ぜてもらおうかと、彼らが入っていったバカでかい戸建て住宅の前に立っていると、さっきエレベーターで一緒だったおっさんがこっちへやってくるのが見えた。
おー、これで3対3だ。羽賀研二もたいそうホッとすることだろう。
そう思って、なにも知らないおっさんを捕獲し、私はまるで日曜午前の礼拝を終えたばかりのミッション系大学生のようなピュアな顔をして、インターフォンを押したのであった。
<2013年6月訪問> 最新の情報は公式サイト等でご確認ください
※この作品は、僕のリスペクトする日本一テキトーな旅エッセイスト 宮田珠己さんの「ときどき意味もなくずんずん歩く (幻冬舎文庫) 2007」のオマージュとして書いたものなので、今までの作風とちょっと違うことをお断りしておきます(笑)
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