高野山に初めて足を踏み入れた時、日本にもこんな山岳都市があるんだ!とびっくりしたことを覚えています。
その時は高野山に泊まるつもりもなく、和歌山から奈良に向かう途中になんとなく2,3時間、というつもりで立ち寄っただけだったのですが、想像以上に奥深い場所で、日帰りでは到底もの足りない気分だったので、いつか改めて泊まりで来ようと思っていました。
高野山で宿泊と言えばもちろん「宿坊」。
そんなわけで、再び高野山にチャレンジし、宿坊「福智院」で血のにじむような修行を体験してみることにしました。
南海高野線で天空都市、高野山へ
高野山は、空海が開いた標高800メートルの天空都市。
町全体が山の上にあるので、そこに行くだけでも結構大変なのですが、もっともポピュラーなのは南海高野線に乗って終点の極楽橋まで行き、そこからケーブルカーで山頂まで上がり、さらにバスに乗り継いで山内に入る、という方法。
この南海高野線ですが、日本では数少ない山岳鉄道として有名です。
橋本から極楽橋までの19.8kmの間に急勾配、急カーブと24のトンネルが続き、443mの標高差を一気に駆け上がるのだそうで、この区間は「こうや花鉄道」という別称がつけられていて、「天空」という観光列車も走っています。
こうや花鉄道の沿線マップを見ても、要約すると「トンネルと急勾配がすごいんだぞ」と書いてあります。
関ヶ原の戦い後に蟄居させられた真田幸村が潜伏していた真田庵があった九度山の駅を過ぎると、たしかにまあ、とにかく山の中を走るのですよ。
人がほとんど住んでない険しい谷間を、右に左に曲がりながらどんどん分け入っていきます。
そうして到着したのが終点の極楽橋駅。
南海線のホームからそのままケーブルの乗り場までの連絡通路があり、電車を降りた人は全員ケーブル乗り場へと進みます。
この駅に用事がある人は誰一人いないようです。
それもそのはず、駅を出ても駅前食堂や駅前よろずやどころか民家の1軒もないのです。
そのまま南海鋼索線(こうさくせん)のケーブルカーに乗って、標高867mの高野山駅へ。
普通はこーんな山をケーブルカーで這い上がった先にあるのは山頂への最後の登山道か、せいぜい土産屋の2、3軒くらいか、と思うじゃないですか。
しかし現れたのは堂々たる高野山駅の駅舎。
しかも駅前にはこのバスターミナル!
こんな山の中にこんなにたくさんのバス必要?と思ってしまうのですが、実は高野山はバス路線がめちゃくちゃ発達している便利なところなのです。
とりあえずケーブルを降りた乗客は、またまた全員バスに乗り込みます。
ここも駅舎以外何もない乗り換え専用駅なのでした。
そして、ここからバス専用道路を10分ほど進んだ先に巨大な天空都市が現れてくるのです。
宿坊「福智院」で、血のにじむような修行へ
ケーブルの終点、高野山駅から南海りんかんバスの専用道を通って林の中を約10分、県道118号線と合流して女人堂を過ぎると道路の両側に寺院が建ち並び始め、やがて高野山の町が現れます。
こうして見るとどこにでもある普通の通りなのですが、これでもか、というくらい山を登ってきたあとにこんな町並みに遭遇すると、ものっすごく大きな山岳都市のように思えてしまうのです。
この日泊まった宿坊「福智院」は、この高野山の中心市街地からやや奥まった場所にありました。
なんと、宿坊初体験ですよ!
高野山には117の寺院があり、そのうちの約半数、52軒のお寺が宿坊として営業しているのだそうですが、そんな中でも「高野山唯一の温泉」とあったので選んでみたのが、この福智院。
これが部屋からの眺め。
福智院は800余年前に覚印阿闍梨により開かれ、愛染明王を本尊とする歴史のある寺院ですが、高野山の中でもかなり人気の宿坊だけあって、設備もしっかりしています。
院内には京都の東福寺方丈庭園などを手掛けた昭和を代表する作庭家、重森三玲によって造られた3つの庭園がありました。
いいじゃないか、福智院!血のにじむような修行の旅とは思えない快適さだぞ!
許せよ、若き僧形!
チェックインして部屋に入ると、案内にやってきたのは客室係のおねーさんではなく、おぼーさん。
宿坊なので、当然といえば当然なのですが、なかなか新鮮です。
まだ若いこのお坊さん、一通り館内や食事の案内を終えたあと、翌日朝の勤行(ごんぎょう)について説明してくれました。
明朝6時から本堂で読経や法話などのお勤めがあり、その際に先祖のご供養(回向)やご祈願の申し込みをすることができますが(3000円とか5000円とかそんな感じの金額でした)いかがしますか?
いえいえ、うちは結構です
・・・・・・・・・・・・・
(ガーーン、という音が聞こえそうなくらいがっかりした表情)
(あれあれあれあれ、そんなにまずいこと言ったかな…)
そんなふうに思っちゃうほど落ち込んで戻っていったので、これ、申し込まないとまずかったのか?と思ってHPを見てみると
「毎朝6時から勤行(お勤め)を行っており、どなたでも自由にご参加いただけます。この際、参詣者は各家のご先祖様のご供養(回向といいます)や祈願の申し込みをするのが古くからの慣わしです」
と微妙な言い回しで書いてありました。
うーん、事前に読んだ「宿坊に泊まろう!」的なガイドにはそんなこと書いてなかったぞ。
福智院だけのローカルルールなのか?
まあその代わり、このあと血のにじむような写経をして、心を清め、先祖を供養するつもりなので、許せよ、若き僧形。
そして写経
そんなわけで、やってみました、写経。
これが、書道五段の右腕から血のにじむような修行の結果生み出された「般若心経」です。
え、意外とすごくね?風祭。
と、一緒に宿坊で修行したくなっちゃった貴女にちょっとした写経のコツをお教えしましょう。
実はこれ、薄墨で下書きがしてあり、筆ペンでそれをなぞれば、誰が書いてもそれなりに見えるようになっているのです。以上。
僕の目の前ではパツキンのちゃんねーたちも写経にチャレンジ。
慣れない漢字がうまく書けないんだと思いますが、Ah、とかHmm、とかFuck!とか言いながら(言わないか・・・)、超盛り上がって楽しそう。
いやいや、そういうんじゃないんだぞ、写経は!
と英語で説明してあげようと思いましたが、残念ながら僕は仏独伊の三か国語しか話せないので、断腸の思いで放置しておきました。
この時はまださほど円安でもなく、外国人の訪日観光も今ほどは盛り上がっていなかったんだと思いますが、それでもこうして何組かの外国人を見かけたので、もしかすると今はもう外国人だらけになっているかもしれませんね。
あの若き僧形、英語で供養や祈願の申し込みについて説明するんだろうか・・・
そんでもって「No!」とか言われて、またあの「ガーーーーーーン」っていう表情しているんだろうか・・・
そんなふうにあの若き僧形のことを心配しつつ、高野山の夜は更けていったのでした。
ちなみに、温泉も食事もよかったです。
血のにじむような厳しい修行をしたい方にはめっちゃおすすめです、福智院。
<2013年4月訪問> 最新の情報は公式サイト等でご確認ください
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