広島県の府中市上下町は「分水嶺」と呼ばれる山脈の上の境目の町で、ここに降った雨は北は日本海へ、南は瀬戸内海へと2つの川に分かれて流れる、と言われています。
おまけにそこにはかつて幕府の天領として栄えた面影を残す白壁・なまこ壁の美しい建物が並んでいるのだと言います。
なにそのロマンチックな感じ!
そんなところがあるなら風祭ロマンチック研究所の私が行かないわけにはいかないじゃないか!
「白壁のにあうロマンのまち」上下
「上下駅」と書いて「じょうげえき」。
それは広島の福山駅と三次駅のすぐ手前にある塩町駅を結ぶ「福塩線」というかなり地味なローカル線にあります。
この福塩線、福山から途中の府中までは福山近郊の住宅地を走る通勤通学路線として、そこそこの列車本数もあるのですが、府中から三次までは列車の本数もぐぐっと減って、超ローカル線の雰囲気の漂う区間。
駅前に降り立つとそこで迎えてくれるのはこんな看板。
「白壁のにあうロマンのまち」
いいじゃないか上下町。
大正モダンガール的な装いの白壁マドンナに、平成の暴れん坊のテクニックが通用するかチャレンジしてみたいぞ!
というわけでいきなりじゃじゃーん。
おおお、町並みは確かにロマンだけど、大正ふうモダンガールどころか、大正生まれのジジババさえいないじゃないか!!
この時はGWだったんだけど、雨まじりの午前中じゃ観光客も来ないんですかね。
この町並みの中心でひときわ目立つドーム状の建物が上下町のシンボル『上下キリスト教会』
アンガールズの田中くんがこの上下町出身で、このあたりもときどきテレビで時々紹介されていたので見たことのある方も多いんじゃないでしょうか。
上下の町並み散策
ちょうどGWの時期は「天領上下端午の節句まつり」の期間中で、白壁の街並みのいたるところに大きなこいのぼりが飾られています。
この上下町は、かつて石見銀山からの銀の集積中継地として栄え、代官所も置かれた幕府直轄の天領。このあたりの政治経済の中心地だったこともあり、現在でもその威容を偲ばせる土蔵や町屋が並び、白壁やなまこ壁、格子窓といった歴史的建物が残されています。
これは明治時代の警察署あと。
またここは「上下人形」と呼ばれる伝統工芸品が有名で、明治から昭和にかけて「でこ」と呼ばれるひな人形を買うお客で賑わったのだそうです。
白壁マロンガール、もといロマンガールを求めて、メインストリートを外れ、さらに奥へ。
おおお、これもいい通りだなあ。
旅館福万さんの瓦には、ちゃんと福万さんがいますなあ。
この通りの一番奥にあるのが、大正時代に建てられた芝居小屋『翁座』。
この上下もそうですが、かつて裕福だった町には立派な芝居小屋が残ってますよね。
ここは現存する木造芝居小屋としては、中国地方唯一のものだそう。普段は外観のみ見学可能で、ひな祭りや端午の節句には中を見ることができるようですが、この日はまだ朝早かったせいか閉まっていました。
突然の雨と分水嶺のモダンガール
誰もいない上下の町並みを歩いていると、突然の激しい雨。
傘も持たずに出てきた僕が、町中の古くて大きな建物の下でいつ止むとも知れない雨の通りすぎるのを待っていると、突然真っ赤な和傘が差し出されます。
見ると、そこには大正モダンガール。
どちらまで行かれますか?お困りでしたらご一緒しますけど・・・
ここから先、列車は午後1時過ぎまで来ないので府中まで行くバスに乗る、というと、ではこちらへ、と僕の右の二の腕に左肩をぴったりと寄せて駅とは反対方向へと歩き始めます。
古い町並みが終わるころには雨はずいぶん小降りになって、体を寄せ合わなくても濡れそぼつことはなくなり、僕は彼女の肩から発する(あるいは僕自身の肩から発していた)熱に耐えられず、少しずつ体を離します。
国道に出て少し歩くと彼女はそこで突然立ち止まります。
ここがちょうど分水嶺なの。こっちに流れる雨は江の川になって日本海へ、そしてあっちに流れる雨は芦田川になって瀬戸内海へ。
分水嶺というのは、降ってきた雨の方向が別れる山脈の上の境目のこと。上下という町の名前は、水が上(日本海)と下(瀬戸内海)に分かれるところから付いたのだといいます。
僕がそう言われて水の流れを確認しようとした時には、いつの間にかすでに雨は上がっていたようでした。
残念、雨、上がっちゃいましたね。私、この分水嶺で水が北と南に分かれるのを見るのが好きで、雨が降るといつまでもここにいるんですけど、今日は晴れ男と来ちゃったかな。
傘をたたみながら彼女は独り言のようにそう言いました。
バス停はこの先にあります。雨も止んだからもう大丈夫ですね。
またいつか、雨の日にここに来てくださいね。
そう言って分水嶺の向こう側に去って行ってしまう彼女の背中を見送りながら、僕は分水嶺を南へと歩き始めたのでした。
<2017年5月6日 訪問> 最新の情報は公式サイト等でご確認ください
上下町への旅
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