大地の芸術祭―越後妻有アートトリエンナーレは、新潟県越後妻有地域(十日町市、津南町など)で開催される世界最大規模の国際芸術祭といわれ、2000年が第一回目の開催で、以降3年に一度行われています。
ちなみに妻有は「つまあり」ではなくて「つまり」と読みます。
僕が初めてこの芸術祭を知ったのは2012年。まだ子供が小さかった頃、毎年恒例の夏休み家族旅行で新潟の高原に来て偶然知ったのです。家族旅行の合間の限られた時間に主な会場を回ったのですが、これが想像以上に素晴らしく、僕たちはすっかり里山アート好きの家族になってしまいました。
本来開催予定だった2021年は残念ながらコロナウィルスの影響により延期となっていましたが、早期復活を願ってその時印象に残った場所をいくつか紹介します。
十日町エリア「キナーレ」と「絵本と木の実の美術館」
大地の芸術祭は十日町、松代、松之山、川西、津南、中里という6つのエリアで行われていますが、その表玄関となるのが十日町エリア。
JR飯山線と北越急行ほくほく線の十日町駅のほど近くに、大地の芸術祭の事務局機能などが集まっている十日町エリアの中心施設「越後妻有里山現代美術館 キナーレ」があります。
到着した僕たちの目の前にいきなりあらわれてきたのがこれ。
いきなりアートですよ!
クリスチャン・ボルタンスキーの「No Man’s Land」
およそ16トンもの膨大な古着の山。これらの衣服が、クレーンで無造作につかみあげられ落とされています。
ここは普段は中庭となっている場所で、これは大地の芸術祭2012期間限定のアートだったため、現在はもう見られませんが、毎回、きっとまた別のアートがここに完成するでしょう。
同じ十日町でも市街地からずっと離れた場所にあるのが「絵本と木の実の美術館」。
絵本作家として有名な田島征三さんが中心となって十日町市内の廃校となった旧真田小学校の校舎を改修して作った美術館。
最後の在校生3人を主人公とした絵本の世界が校舎全体に展開する、いわば空間絵本ともいえる美術館です。
絵本のタイトルは、「学校はカラッポにならない」。
この物語がいいんですよ。
絵本の出だしはこんな感じです。
ぼくは4年生のユウキ。
6年生のユウタロウと、3年生のケンタ、ぼくと同じ学年のユカ。
ぼくの学校は全員そろってもたった4人なんだぞ。
ながい冬がおわって、まちにまっ た春がやってきた。
なのにぼくらはさびしい。
ユウタロウがそつぎょうし、先生はいなくなった。
学校は、こわされてしまうんだろうか?
閉校式の次の日、学校にやってきた3人は、学校オバケ・トペラトトに出会うところから物語が始まります。
館内はこんなふうに絵本の世界がそのままアートになっていました。
体育館においてあったピアノ、うちの娘、勝手に弾いてましたがこれもアートなんじゃないかな・・・(笑)
新潟の美しい里山にあるすり鉢の形をした集落と、そこに残された小さな廃校。
でも学校はけっしてカラッポにはならないんだ、という卒業生や地元の人たちの思い。
なんか感動して絵本も買っちゃったよ。
まつだいエリア 「農舞台」と天国への棚田
大地の芸術祭で、十日町につぐ規模のアートが集まっているのが、松代(まつだい)エリア。
その中心にあるのが「農舞台」。
北越急行ほくほく線まつだい駅のすぐ目の前にある雪国農耕文化とアートのフィールドミュージアムなんだそうです。
ここから見えるアートが、大地の芸術祭の代表的なシーンとして、いろんなところで紹介されている「棚田」という作品。
これ、写真で見ていたときは棚田に立てた長い針金に、大きな文字を書いた透明な板を吊っていたのかと思っていましたが、実は農舞台の展望スペースに透明なガラス版が置かれていて、その文字の向こうに棚田があるので、棚田に文字が書いてあるように見える、というからくりのアートなのでした。
瀬戸内の直島かぼちゃで有名な草間アートもここにあります。
松代はずっと昔から厳しい自然の中で知恵を絞りながら稲作を続けてきたのだといいます。
その代表が山間の土地を切り開いてつくりだした棚田。
この地域にはたくさんの棚田があるのですが、その中でも特に美しいのが星峠の棚田。
やわらかに形取られた小さなたんぼの明るい緑が、天に向かってどこまでも続いていくようなこの風景、絶景です。
この星峠の近くにあるのが「脱皮する家」
これは、日大芸術学部彫刻コースの有志が、家全体を彫ることで、内側に内包された空間を広げ、空家をアートとして脱皮・再生させた作品(と説明がありました)。
ふと外を見ると、こんな民家が眼下に見えます。もちろんこれはアートではなく、この地方の普通の民家です。
大地の芸術祭は、こういう場所でひと夏を過ごすのも、子供には必要なのかもしれないな、と考えてしまう場所でもありました。
ちなみにこの「脱皮した家」には宿泊することもできるんだそうです。
松之山エリア 「牛乳を注ぐおばちゃん」と「おっちゃんムンク」
松代エリアの南側、松之山エリアも芸術祭の特徴的な作品がたくさんある場所です。
日本三大薬湯といわれる松之山温泉という鄙びた温泉街がある以外は、長野県境に接する山々に囲まれた急傾斜地の多いところで、冬はものすごい豪雪地帯でもあります。
松之山には里山の自然と文化を学ぶ自然科学館「森の学校キヨロロ」やクリスチャン・ボルタンスキー+ジャン・カルマンの「最後の教室」などの見どころがありましたが、一番印象に残ったのは「上鰕池(かみえびいけ)名画館」。
これはこの上鰕池地区のおじさん、おばさんをはじめとする住人の皆さん(総人口55人)が、美術の教科書で一度は見たことのあるゴッホやフェルメールの名画の登場人物になりきってカメラに収まっている、という作品。
フェルメールの「牛乳を注ぐ女」が
こんなふうに。
注いでるのはどぶろくか?
かの有名な「最後の晩餐」は、
こんな宴会に。
一番人気は、ムンクの叫びを題材にした、
おっちゃんの叫び。
ちなみにこの方は、この地区の区長さんで、冬期「孤立集落」になっていた上鰕池に、平成6年、待望の「宝橋」が架けられたことに対して「ありがと~」と叫んでいるのだそうです。
テレビなどでも取り上げられて人気の高かったこの名画館、最盛期は連日住民人口の20倍を超える人々が押し寄せたということですが、残念ながら2015年以降の芸術祭では別のものになってしまったようです。
大地の芸術祭は今回紹介した十日町、松代、松之山地区以外にも、川西地区、津南地区、中里地区と広範囲にアートが散らばっているので、全部を制覇するのはなかなか容易ではありません。
芸術祭のパスポートを買うと、訪れた場所にスタンプが押せるようになっているのですが、僕たちは2日間周って22個、それでも全体の10分の1くらいしか回れませんでした。
越後妻有の夏は、正直めちゃくちゃ暑いです。
それでも、この里山をひーひー言って、水をガブガブ飲みながら巡った夏は、かけがえのない思い出です。
次回は2021年に開催予定だった大地の芸術祭は、残念ながらコロナウィルスの影響で延期となってしましましたが、芸術祭開催期間中でなくても越後妻有地区ではアート作品が数多く公開されていますので、機会があればぜひ行ってみてください。
<2012年8月訪問> 最新の情報は公式サイト等でご確認ください
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