奥会津の郷土写真家、星賢孝さんの撮った只見川第1橋梁の写真に魅せられて、只見線の旅に出た2018年の夏、実はもうひとつ気になる場所があったのです。
それは同じく星さんが写した何枚かの写真。
夏の早朝や夕暮れ、只見川に川霧がかかり、まるで夢のような幻のような幽玄な世界となることからそこは「霧幻峡」と名付けられ、当時、知る人ぞ知る絶景スポットとしてじわじわと人気になりはじめていたのです。
そしてこの霧幻峡に渡し船を復活運航させたのも星さんだということで、星さんに連絡を取って、取材のため「霧幻峡の渡し」に乗せてもらうことにしたのでした。
「霧幻峡の渡し」の由来
星さんとの約束の時間ちょっと前に霧幻峡の渡しの船着き場に行ってみると、まずこの眺めですよ。
正面に見えるのは早戸温泉つるの湯の建物。その向こうには只見線や国道252号が走っています。
つるの湯の下にも渡船場があるようですが、今回星さんから指定されたのはつるの湯の対岸にある船着き場。
霧幻峡の渡しについてはトラベルジェイピーの記事「これは夢か幻か?奥会津「霧幻峡の渡し」は美しく儚き幻想体験」に詳しく書いてありますが、簡単にまとめると・・・
かつてここには三更という10戸ほどの小さな集落があったのですが、対岸の国道や只見線の早戸駅に出るために各戸はそれぞれ自家用の渡し船を持ち、大人も子供もみんな自分で船を漕いで対岸に渡っていたのだそうです。
ところが裏山での硫黄採掘のため、三更集落の地盤が不安定となり、度重なる山崩れが発生、住民は集団で土地を移転せざるを得なくなり、以来50年近く、渡し船は途絶えていたのです。
そんな渡し船を復活させたのが、かつてこの三更で育ち、自らも渡し船を漕いでいた星さんだったのです。
地元の企業の役員をしながら、地域活性化のためにこの渡し船の復活を計画、「霧幻峡プロジェクト」の中心として奔走し、2艘の船を建造、2010年に定期運航を開始したのでした。
会社を定年退職後、星さんは郷土写真家として活躍しながら、今も自ら手漕ぎの櫓を握り、この霧幻峡の渡しの船頭としてその魅力を伝えているのです。
そして星さん登場
・・・てなわけで星さん登場。
まずは最初に三更の集落を案内しましょう、ということで二人で船着き場の奥の坂を上ります。
現在「霧幻峡の渡し」は観光船として運航されていますが、基本コースは1時間で30分の渡し船乗船と30分の集落散策がセット。
現在は廃村となった三更の集落が当時のまま残されていて、今回は散策しながら星さんがその一つ一つを説明してくれました。
集落には子安観音、霧幻地蔵、大山祇神社といった信仰の場所がありますが、これらは度重なる土砂災害から住民の命を守った「守り本尊」としてパワースポットともされているそうです。
集落の中心部の高台にあって、渓谷の絶景を望む場所にあるのが霧幻地蔵。
川霧が出るとこうなるんだそうです。
集落の一番奥にあるのが改装された古民家。
ここは現在は所有者がいるのですが、定住しているわけでなく別荘みたいな使い方をしているようです。
古民家の上にあるのが大山祇神社。
集落唯一の社であり、集会場であったとともに、唯一の男女の逢瀬の場だったそーです。
うっわ!想像するだけでエロティック。
こんな小さな集落で、しかもこんな小さな神社で・・・さぞかしスリリングな逢瀬だったに違いない・・・うらやま。
ほら、あそこにも若者が書くような落書きがあるでしょ?
あー確かにそうですけど、これどっちかっていうと男女が逢瀬の時に描く妖艶な落書きじゃなくって、僕が高校生の時、合宿所で友達の寝顔に落書きしたよーな青春の鬱屈的なやつですが。。。
石灯篭も❤です。
昔は子供も大切な労働力だったので、性行為は一見禁忌であるように見えて、実は奨励すべきものであったのでしょう。
30分ほど集落を散策して船着場に戻り、いよいよ霧幻峡の渡しに乗船します。
本当は5~6人は乗れる船なのですが、今日はひとりで貸切。普段もこの霧幻峡の渡しは、乗合はやらず貸切が基本なんだそうです。
えー、そんなもったいないことするんだったら、私に声かけてくれれば一緒に乗ったのにー
と一瞬悔やんだ貴女!こそっと教えてください。次回秘湯の宿付きでお誘いします。。。
つるの湯の女性露天風呂事件
さて、夢幻峡の渡し船にいよいよ乗船。
通常は片道15分ずつで早戸温泉つるの湯の船着場と三更の船着場を往復+三更集落散策というコースなのですが、星さん、今日は特別に奥の方まで行ってくれるということなのでお言葉に甘えて只見川遊覧を楽しみます。
船を出すとすぐ目の前に早戸温泉つるの湯の建物。
つるの湯の露天風呂からはこの霧幻峡の渡し船の様子がよく見えるそうです。
露天風呂からよく見えるってことは、渡し船から露天風呂もよく見えるってことなんだよ。
男湯のほうはいつも立ち上がって眺めてくれるんだけど、女湯はなかなかね、
と星さん。
でも一度だけ、若い女の子がザバーっと立ち上がって仁王立ちになったことがあるんだよ。
まあ見せるも見せないも本人の自由だからね!はっはっはー。
はっはっはーって、俺も見たいぞ、星さん!
さて、船はつるの湯の渡船場を過ぎて上流のほうに向かいます。
正面に見える赤い橋が早三橋。ここから先は湯の上場崖(ばっけ)と言われ、かつては住民に怖れられた巨大な断崖が続きます。
通常のコースではこっちのほうまでは来ないんだそうですが、三更の散策をせず、1時間渡し船だけを楽しむというアレンジもできるそうです。というか川霧の中を漂う渡し船を撮影するためだけに貸切って、船に乗らない人もいるそうです。
相談ベースでいろいろアレンジできるのもいいですね(※当時のお話です。現在の条件はご確認ください)
今回はまだ夕方早い時間で、川霧が出る時間ではありませんが、川霧が出なくても只見川の水鏡が素晴らしいのです、この渡し船。
星さんはこの渡し船の復活だけでなく、只見線を応援する活動などでも中心となっていて、この奥会津地域を活性化するために縦横無尽に走り回っているようでした。
昨日までは台湾にいて、台湾で行われる自身の写真展の打ち合わせ。
この日の午前は只見線の会議。
この日の夜は奥会津温泉郷の会合。
星さんの写真がきっかけで、日本国内はもちろんのこと、台湾をはじめとするアジアからも多くの人が只見線やこの霧幻峡へと来はじめていますが、まだまだ人もインフラも整ってないのが残念なんだよ、という話してくれました。
渡し船遊覧が終わって渡船場に向かうと、なんとカメラを構えたギャラリーが結構たくさんいるじゃないっすか。
参ったなー、プライベートは困るんだよね。僕が旅してる場所が公開されちゃうと出待ちとかされちゃうからさー。
ん?でもよく見るとギャラリーは日本に恋する伝道師を追っかけてる女子じゃなくって、おっちゃんカメラマンっぽいぞ。
最近は渡し船の写真を撮りに来る人も多いんだよ
そーなんですか!
今度一緒に霧幻峡の川霧に包まれてみたい女子リストを頭ん中で作成してたんだけど、隠密デートはできないってことだな。。。
船を降りると、さっそく初老の品のよさそうなシニア夫婦が明日の朝、乗れますか?と星さんに尋ねています。
ホントは直前だと厳しいんだけど、ちょっと聞いてみますよ、と星さん。
実は渡し船を運行するときは只見川のダムを管轄している東北電力に都度連絡し、放水量を調整してもらっているのだそうです。
そんなわけでみなさん、行くときは直前ではなく、できれば4日前くらいまでに予約してくださいね!
そしてまさかの星家訪問
下船して星さんにお別れを告げ、ここまで乗ってきたレンタサイクルで帰ろうとすると、今日はどこに泊まるのだ、と呼び止められます。
このまま15キロほど離れた玉梨温泉に行って泊まるのだ、と答えると、俺が乗せてってやる、と思いもよらない言葉が。
偶然にもこの夜僕が泊まる宿で奥会津温泉郷の会合がある、とのことでした。
そんな自転車じゃあんな山奥まで大変でしょ、いいから乗っていきな。自転車は軽トラックに載せればいいからさ
マジっすか、星さん、何から何までどーもスミマセン
ではお言葉に甘えて・・・・・とか言ってたら、まさかの星さんの家に到着。
これからちょっと着替えっから、冷たいもんでも飲んで待ってて、と言われ庭仕事をしていた奥さんが登場。
冷たいキュウリまでいただいちゃいました。。。
星さん、何からなにまでありがとうございました。。。
<2018年7月訪問> 2018年当時の情報です。最新の情報は公式サイト等でご確認ください
霧幻峡の渡しへの旅
この時泊まった宿です。秘湯で泡ののお風呂でした。
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