あるとき『日本で一番美しい道』と名づけられたYou Tubeの動画を偶然発見しました。
それは秋の北海道の美瑛の近くの、とある道路。
雲一つない青空の下、真っ白な雪山をバックに、鮮やかな赤や黄色に色づいた木々、そして信号も電柱も看板も、すれ違う車も何一つない道路を(たぶん車で)ゆっくりと進んでいる、本当に美しい映像なのです。
この風景がみられるのは、10月中旬から下旬の短い間で、しかもいろいろな条件が完璧に揃ったときのみ。
そんな奇跡の風景をみるための、僕が何度かチャレンジしたときのお話です。
今はもう見ることができない「日本で一番美しい道」
最初にお話ししておきますが、もうこの映像をYou Tubeで見ることはできません。
理由はわかりませんが、削除されてしまったようで、僕が震えるような感動を覚えた、その本当の美しさを直接お見せすることはできません。
だれかがニコ動に転載したものが残っていましたが、画像が荒くなって、オリジナルの美しさには遠く及びません。
今「日本で一番美しい道」で検索すると僕の昔のブログが出てきて、そのあとに(説明文から想像すると)僕のブログを見て動画を撮りに行ったっぽい別の動画が出てきますが、一番最初にみた動画には遠く及びません。
おまけに、昔は通る車もないような裏道だったこの道路は、今や「青い池」の駐車場に向かうメイン道路になってしまい、かつてのような静寂な秘密の道路といった風情をすっかり失ってしまいました。
なのでここでお話しするのは、失われた過去の記憶にすぎません。それでもその道はあまりにも美しかったので、こんな形で残しておきたいと思ったのです。
その道があったのは北海道・美瑛町。
美瑛市街と青い池や白金温泉を結ぶ道道966号線、通称、白樺街道に並走するわずか800m足らずの道なのですが、その本当の姿に出会うためには3つの条件がそろわなければなりません。
ひとつめは、天気。
そこには雲一つない青い空が必要です。
ふたつめは、紅葉。
道路沿いの木々が熟して、赤や黄色に染まっていることが大前提であるような気がします。
みっつめは、雪。
十勝岳連峰が真っ白な雪のカンバスになっているからこそ、青や赤、黄色が映えるのです。
この3つが完璧に揃うのは容易ではありません。僕が最初に訪れたときも、もちろんそんなにうまくはいきませんでした。
チャレンジVol.1 <2016年10月18日>
白金温泉から約5キロ、青い池から2キロほど下った場所に「ビルケの森白金インフォメーションセンター」という観光案内所があります。
ここはちょっとしたレストランや観光案内所、芝生やベンチがあり、青い池や十勝岳に向かう観光客の休憩所のような場所。かつては青い池の周辺には何もなかったので青い池グッズや美瑛のお土産などもここで売っていました。
このビルケの森の角を北東に曲がって200mほど進んだところから十勝岳方面に延びる道が、日本一美しいと称される道。
地図で示すとこんな感じです
果たしてそこにはどんな景色が広がっているんだろう、と胸を躍らせながら角を曲がります。
最初は、想像していたより奥行きがないな、と思いました。
正面に見えるこの山は美瑛岳でしょうか。
しかしすぐ先の緩やかな左カーブを曲がると、おおおおお、という感じで急に前が開けて、You Tubeで見た「日本で一番美しい道」の映像と同じカットが現れます。
ただ映像だと芝生のようにきれいな緑色しか映ってなかったのですが、その時とくらべると、道の両側の雑草が少し目立っていました。
これは美瑛富士でしょうか。山は詳しくないのでちょっと自信がありませんが、富士山のような美しい形をしています。
両側の木々はかなり色づいてきていますが、まだピークではないようです。
そして正面の山々に、まだ雪はほとんどありません。
「日本一美しい道」を完成させるための3つの条件のうち
「空の青」は○
「紅葉の赤や黄」は△
「雪山の白」は残念ながら×
これがこの日のステイタスでした。
日本で一番美しい道は、500mほどの直線区間のあと、右へゆるくカーブするとT字路に突き当たってそこで終わります。
ここから正面に見えるのが十勝岳連峰でしょう。
You tubeのあの映像のように、僕もデジカメで動画を撮ってみたのですが、手持ちで歩きながらだったので、僕の歩行に合わせて上下に揺れ、スピードもゆっくりすぎ、とてもお見せできるものではありません。
そんなわけで日を改めてもう一回出直し、別の方法でトライすることにしました。
美瑛の丘めぐりへ
この日は天気も良かったので、いったんお昼すぎに美瑛に戻り、駅前でレンタサイクルを借りて午後は美瑛の丘をめぐることにしました。
まず最初は定番、ケンとメリーの木へ。
ここはずっと昔の日産スカイラインのCMで、ケンとメリーという外国人が訪れた一本のポプラの木。.
紅葉シーズンの美瑛は初めてだったのですが、夏のまばゆいばかりの緑とは違った美しさですね。
北西の丘展望台近くからの眺め。
日本で一番美しい道から見えた十勝岳や美瑛岳、美瑛富士が正面に見えます。
マイルドセブンの丘。
ずっと昔、現地で出会ってそのまま3日間一緒に旅をした、どこかの誰かと二人で電動自転車に乗って美瑛の丘を上り、ここまで来たことがあるような気がしますが、今回はひとり。
電動自転車で巡る道は、自然とあのとき行ったところばかりだったような気がします。
秋の美瑛はとても静かで、ちょっとさびしい、と思いました。
チャレンジVol.2 <2016年10月19日>
前日はバスと徒歩でしたが、この日は自転車を借りてきました。
自転車でやってきたのは、今日こそこの道をVTRで撮影しようと思ったからなのです。
前日の経験上、歩きだとちょっと遅いし結構ぶれる。
レンタカーだと一人で運転しながら撮影はキツイ(デジカメなのでダッシュボードに固定するすべもない)。
そんなわけで自転車が一番いい、と思ったのです。
条件は前日とほぼ同じ。
空○、紅葉△、残念ながら雪は×。
このあと数日で突然冷え込んで、美瑛富士が全面に雪をかぶり、紅葉が一気に進めばさらに条件はよくなりますが、なかなかそううまくはいかないかもしれません。
そんなわけで撮影した映像が、これ。
You tubeの「日本で一番美しい道」のオマージュ作品として、BGMは同じものを使っています。
You tubeの元祖「日本で一番美しい道」の映像にはまだ全然かなわないけど、結果的にはこの年の僕の滞在中は、この日のコンディションがベストでした。
すべてが○のコンディションで撮影するために、また翌年以降チャレンジすることになりました。
チャレンジVol.3 2017年10月19日~現在
その次のチャレンジは翌年。
前年の2回目のチャレンジとまったく同じ10月19日でしたが、この年は目の前の美瑛岳や十勝岳に雪が見事に積もっていました。
やや雲がかかっているとはいえ、空の青も合格でしょう。
けれども、紅葉がもうピークを過ぎていました。
3つが完璧に揃うのはなかなか難しいですね。
条件が揃わなかったので、この時は映像は撮っていませんでした。
2年続けてダメだったので、また次リベンジ、と思いたいところですが、毎年この時期だけに来るのはちょっと難しく、その後しばらくリベンジをしないままでした。
2020年の秋に久しぶりに美瑛に行った際に足を延ばしてみると、前述のように青い池の周辺が整備され、新しくできた駐車場へのアクセス道路としてすっかりメジャーな道路になってしまっていました(がっかりして写真も撮っていません)。
それでも美瑛・美馬牛の素晴らしいところは、たとえ日本で一番美しい道が万全でなくても、途中の何気ない景色で十分に満足できるところなんですよね。
♪らーららーららりほー らりほやらりほー とか言いながらハイジとかペーターとかパトラッシュとか(あ、それは違うか)が出てきそうやんね。
なんすか、このエロい丘!(訳:女性のお尻のような美しい曲線)
美馬牛までの帰り道、地図を見ると「四季彩の丘」の文字があったので、ちょっと寄り道してみることにしました。
四季彩の丘といえば、最近絶景花畑写真ですっかりインスタ映えスポットとして人気ですが、去年も同じ道を通ってこの近くまで来ていたはずなのに、僕はそんなにすごいスポットだと知らずに完全にスル―していました。
実は今年もそんなことすっかり忘れていて、たまたま地図を見ていたら「四季彩の丘」の表記を見つけたので、急遽寄り道してみたのでした。
さすがに晩秋の季節外れの時期なので、人もほとんどいないだろうし、期待も全然していなかったのですが・・・
おおおおおお、けっこういけてるやん!
さすがに花の彩度は最盛期のそれとはくらべものになりませんが、バックの雪山とのコントラストはこの時期だけのものですね。
結局ベストコンディションの「日本一美しい道」を目にすることはできませんでしたが、たとえそれが空振りであっても、こんなふうに巡った時間を悔いるような理由は、どこにもありません。
<2016年10月/2017年10月訪問> 最新の情報は公式サイト等でご確認ください
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