二百十日の風が吹き、朝晩にようやく秋の気配を感じる頃、飛騨の山々の懐に佇む小さな坂の町で行われる、叙情豊かで大人の色香漂うお祭り、越中八尾「おわら風の盆」。日本に恋する伝道師の僕的には、よだれが出るくらい大好物なイベントに思えました。
しかしこのお祭り、いつのころからか半端ない人気になってしまい、町もホテルも大混雑だと聞き、なかなか行こうという気にならないままいたのでした。
しかしつい最近、このおわら風の盆には、本祭の前に前夜祭というものがあることを知り、まずはその前夜祭ってのを一度見てみようか、ということになったのです。
「おわら風の盆」のまち、越中八尾へ
ずっとずっと昔、僕がまだ中学生だった頃でしょうか、当時はまだ誰も知らなかったこのおわら風の盆のことを紹介する(たぶん)NHKの深夜の番組を見て、当時から日本一情緒的な中学生として天下にその名をとどろかせていた僕は、
いつかきっとこのお祭りに行って、この編笠で見えそで見えない美しいおねーさんの正体を暴いてやろう
と思っていたのでした。
しかしいつの間にこんなに人気のあるお祭りになってしまったのでしょうか。
毎年9月初めの3日間、おわら本祭の時期は小さな八尾の町は見物客で身動きとれず、富山市内のホテルまですべて満室。
おわらは気軽に見に行けるお祭りではなくなってしまい、僕のあの時の妄想も、なかなか実現できずにいたのですが、このおわら風の盆には、本祭の前に前夜祭というものがあることを知り、まずはその前夜祭ってのを一度見てみようか、ということになったのです。
おわらの町、越中八尾は、富山駅から高山本線の各駅停車で約25分。
今は市町村合併で富山市の一部として編入されてしまいましたが、以前は八尾町という名前の町でした。
越中八尾の駅を出て、飛騨高山方面へと向かう列車。
いやー、この眺めからして、はや情緒たっぷりです。
おわら風の盆の本祭の時は、乗降客でごった返すのでしょうが、前夜祭初日のこの日はまだ静かなものです。
越中八尾の町の中心は、駅から少し離れています。
「坂の町」と呼ばれているとおり、井田川を渡るとゆるやかな坂の両側に細長くどこまでも八尾の町は続いているのです。
いやー、この眺めだけでも、情緒たっぷりです。
この日は前夜祭の初日でしたが、すでに八尾の町なかではおわらの提灯がいたるところにつるされています。
曳山展示館「おわら前夜祭ステージ」
まずは八尾の市街地の一番奥近くにある「曳山展示館」に向かいます。
おわら風の盆の前夜祭は、例年8月20日から8月30日まで、毎晩1つの町内で輪踊りや町流しなどが行われるのです。
本祭のように町全体がおわらの踊りに包まれるわけではありませんが、該当する町内では本番さながらの雰囲気が味わえるのだそうです。
さらに、この前夜祭の期間にはこの曳山展示館で「おわら前夜祭ステージ」とよばれる催しが毎夕行われていて、この前夜祭ステージでおわら風の盆について学んでから、祭りの会場へと向かえるようになっています。
まず最初におわら風の盆に関するVTRが2本、合計で30分上映されます。
中学生の僕がかつてNHKで見た、あの、おわらの番組にとても似ている感じがしました。
まあたしかに素材的には、誰が作っても同じようなトーンの映像になってしまうような気もします。
続いて、富山県民謡おわら保存会の演技指導者によるおわらの踊り方解説と実演。
前夜祭では踊り子の輪に交じって一緒に踊ることもできるのだそうですが、けっこう細かいところまで何度も教えてくれるので、形だけならその日からなんとか踊れるようになるかもしれません。
そして最後に舞台での「おわら踊り鑑賞」。
うううう。この編笠、脱がせてみたい・・・
保存会による唄、三味線・太鼓・胡弓の伴奏が行われ、舞台上を八尾の町に見立てて洗練されたおわら踊りが行われます。
町なかだとなかなかゆっくりとは鑑賞できないので、明るい場所で踊りの仔細を見るにはいいかもしれません。
いざ、「おわら風の盆」前夜祭の町へ
おわら前夜祭ステージが終了するのがだいたい午後7時50分。
前夜祭の町内での踊りがはじまるのが午後8時ですから、このあと今日の会場、下新町へと移動します。
ちょうどいいバスの便があるはずだったのですが、なぜか停留所に来ないので、歩いて向かうことにします。
下新町は細長い八尾の町の、坂の一番下の方にあるので、ぶらぶらと坂を下りながら進みます。
途中の町内で、踊りを練習している男衆。
そのすぐ向かいの建物の中では、三味線・太鼓・胡弓の練習が行われています。
やはりこの時期になると、八尾の町の人々もおわら一色にになるんですね。
8時は過ぎてしまったものの、下新町に到着してみると、ちょうど町流しが行われているところでした。
前夜祭ということもあるのでしょうか、子供たちもたくさん輪の中に入って踊っていて、どうもあの艶めかしいおわらとはちょっと違うような気がします。
しかしまあ考えてみれば、もともとあった地元のお祭りを、よそ者の僕たちが勝手に観光地に仕立てあげただけで、ここの人々にとっては今でも変わらぬ町の祭りであり踊りである、ということなんでしょうね。
彼らが文句言われるような筋合いは全くないですね。
このあと町内の中心部で輪踊りがあるようですが、前夜祭なので、一晩中踊り続けるわけでもなく、わりとあっさりです。
遅れて行っても人垣の上や横から十分にのぞけるくらいですから、混雑度は本祭とはくらべものになりませんが、やはり迫力とか熱気は本番に到底かなわないのでしょうね。
やっぱりいつか、本祭に来て、次回こそは編笠落としにチャレンジしてみたいですね。
<2016年8月訪問> 最新の情報は公式サイト等でご確認ください
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