初めて流氷を見たのは、18歳の春のときでした。
札幌での大学入試を終えた僕たちは、本州に帰る前に周遊券を使って10日間ほど、3月上旬から中旬にかけての北海道をめぐったのでした。
春とはいえ、北海道の3月はまだ一面の白い世界。列車の窓から見えるオホーツクの海にはゴツゴツとした氷の塊が折り重なって海岸まで押し寄せていました。
それが、僕が見た初めての流氷。
今回、網走の流氷を見たのはそれ以来。実に30年以上の歳月が流れていました。
入学試験終了の夜、夜行列車で初めての流氷へ
北海道の冬のオホーツク海に、流氷というものがやってくるのは知っていました。
けれどもそれは、あまりにも突然に僕たちの目の前に現れたのでした。
高校3年の冬、僕が受験したのは北海道大学。一緒に受験した友達4人と札幌での2次試験を終えたその日から、僕たちは夜行列車で泊まり歩きながら北海道をぐるぐるとまわったのでした。
僕たちの合格可能性はほぼ絶望的でした。当時は浪人して行きたい大学に行く、というのが普通の時代だったので、現役受験は翌年の下見のようなものでした(そして見事に全員不合格でしたが、翌年は志望校を変えた一人を除き、4人全員がリベンジを果たしました)。
だったら大学だけでなく、北海道もじっくり見てこよう、ということで、あえて飛行機は使わず、20日間有効の北海道ワイド周遊券を1枚握りしめて、東北本線の夜行急行から青函連絡船に乗り継いで、まる1日近くかけて受験(という名の翌年の下見)をしに来ていたのでした。当時はいろんな意味でいい時代でした。
試験の翌朝、札幌からの夜行列車で僕たちは早くも釧路に降り立っていました。
そのあと、阿寒湖や摩周湖をめぐり、釧網本線で網走に向かっていた時のことでした。列車が斜里のまちなかを過ぎた頃、それは予告もなく僕たちの目の前に姿を現したのでした。
遠くシベリアからの風に漂い、重なり合ったままオホーツクの海を埋め尽くす氷の塊。
3月でも流氷はまだあるのか。
列車からこんなに近くに見えるのか。
あまりにも突然の出来事すぎて車窓に見入ってしまい、僕たちは列車を降りることができず、気づくと網走に着いていたのでした。
そんなわけで、翌朝の列車で僕たちは再び流氷を見に行ったのです。
30数年ぶりの北浜駅
翌朝の釧網本線の列車に乗って、僕たちが降り立ったのは北浜という駅でした。
残念ながらその時の写真は残っておらず、駅で降りてからどう過ごしたかも忘れてしまいました。
最初はただただ圧倒されていたんだと思います。
けれどもそれは最初の数分で、そのあとはあまりの寒さのため、駅舎に入って列車を待っていたのかもしれません。
そのあとの北海道での記憶はなぜか途絶えています。
流氷のインパクトがあまりにも大きかったんですね、きっと。
それから30数年を経た2020年2月9日、僕は再び北浜を訪れようと網走から列車に乗ったのでした。
この日の網走の最低気温は氷点下17度。
たった1両でポツンとホームに停まっていた釧路行き始発列車の出発は6時41分。
網走の市街地を抜けると車窓左手にオホーツク海が広がりますが、日の出直後 の海はまだ暗く、流氷の有無はわかりません。
網走を出て20分ほど、ちょうど明るくなってきた頃、列車は北浜に到着します。
出発する列車を流氷と一緒にカメラに収めようと、ホームにある展望台を急いで駆け上がります。
この写真ではうまく両者を撮ることはできなかったのですが、流氷は確実にこの駅にも近づいてきているようでした。
今年は例年になく流氷も遅くなかなか姿を見せていなかったのですが、僕が北海道に入った2月7日に網走の流氷初日(視界内に初めて流氷が見えた日)が宣言され、それまで暖冬で雪も少なかった北海道に今年一番の寒波がやってきて、雪も流氷も僕の到着に合わせるようにセットアップされていたことを考えると、ちょうどいいタイミングだったのかもしれません。
日本で流氷に一番近い駅のレストラン「停車場」
列車が釧路方面に姿を消したあとも展望台に残っていると、ときおりオホーツクから刺すような風が吹きつけてきました。
小さな木造の駅舎の中は、全国からこの駅を訪れた旅人たちの名刺で埋め尽くされていました。
ここはオホーツク海に一番近い駅、として人気の駅なのです。
それは言い換えれば、日本で一番流氷に近い駅でもある、ということ。
この日も僕以外に数人がこの駅で列車を降りて、思い思いに流氷を眺めていました。
この駅の人気のもう一つの理由は、かつての駅長室を使用した「停車場」という喫茶店があること。
国鉄時代からその素晴らしいロケーションで、旅人やライダーがひっきりなしに訪れる人気の駅だった北浜駅の無人化が決まった時、旅人にとっても地域の住民にとっても愛着のあるこの駅を廃れさせてはいけない、と駅舎を借りてレストランを開いたのが地元の料理人であった現店主だと言います。
僕たちが初めて北浜に来た時は、まだこのお店はなく、僕はその後も何度か北浜に来たこともあるのですが、タイミングがあわず、残念ながらまだ店内に足を踏み入れたことはありません。
次こそは入ってみたいな、といつも思っているんですけどね。
北浜駅の目の前には国道244号線が走っていて、少し歩くとラムサール条約登録湿地となっている濤沸湖(とうふつこ)があり、冬にはオオハクチョウが見られるのですが、あまりの寒さに次の列車で網走に戻ることにしました。
30数年前に見たようなゴツゴツとした流氷の接岸まではあと少しでしたが、それでもオホーツクを覆う白い世界が車窓いっぱいに広がっていました。
北浜駅の基本情報
住所:北海道網走市北浜
オホーツクの体験プログラム
北浜駅への旅
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