紅葉の京都、特に週末は、どこに行ってもたくさんの人でうんざり、という方も多いかもしれません。
ところが、そんな喧騒とは別世界の場所を偶然発見してしまいました。
それが洛北の静かな住宅地にある「圓通寺」。
その紅葉も素晴らしかったのですが、そこにはもう一つ、僕の心を打つストーリーがあったのです。
圓通寺との偶然の出会い
圓通寺があるのは東は八瀬、西は上賀茂、北は鞍馬に挟まれた岩倉という静かな住宅地の奥で、最寄りの駅は叡山電車の京都精華大前駅です。
京都精華大前駅を降りると、東の方にひときわ大きくそびえるのが比叡山。
実は僕はそれまで圓通寺というお寺を知らなかったのですが、前日、紅葉の叡山電車に乗ったとき、沿線の紅葉スポットを調べていて、偶然ここを知ったのです。
11月の週末だったので、おそらく京都市内は激混みだし、少し離れた場所に朝一番に行けば少しはゆっくりと見られるかな、というくらいの軽い気持ちでここに来てみたのでした。
圓通寺の開門は午前10時。開門が比較的遅いのも、ここに来た理由の一つでした。
予想通り、開門の5分ほど前に到着しましたが、何人かがパラパラと待っている程度。
渋いですね。ここに来るのは圧倒的に「そうだ、ホンモノの京都、行こう」志向のひとり旅女子が多そうです。
もちろん日中になれば多くの人が来るのかもしれませんが、さすがに朝10時に市街地からずいぶん離れたこの場所に来る人は少ないのでしょう。
圓通寺の圧巻の庭園
建物の中に入ると庭園だけは撮影可、という掲示が出ていました。
しかしその庭園が、すごかったのです。
なんだよ、この比叡山の借景!
正直、この庭園は衝撃でした。
恥ずかしながら竜安寺だろうと天龍寺だろうと、へー、くらいにか思わない僕ですが、これは思わずその場に正座しました。
この借景は、江戸時代の初期、ときの後水尾天皇が比叡山の稜線が最も美しく眺められる場所を12年もの歳月をかけて探し続け、ようやくこの地に辿り着いたことから生まれたのだそうです。
あ、まるで京都人のようにさらっと「借景」という言葉使っちゃいましたが、その意味は遠くの山などの景色を、その庭の一部であるかのように利用した造園法のことだそうです。
庭園の前には20畳ほどの畳敷きの部屋があるのですが、参拝者は誰に促されるでもなく判で押したようにみんなそこに座り込んで放心したようにその庭園を眺めるのです。
もちろん「そうだ、ホンモノの京都、行こう」女子とか、もう完全に逝っちゃってる状態です、いや、マジで。
たぶん今、指で突いたらそのまま溶けちゃうんじゃないか、と思うくらい。
やがて時を見計らったように住職の落ち着いた案内が天井のスピーカーから聞こえてきました。
庭園に隠されたストーリー
かつてこの庭園の向こう側にマンションが建設されるという話があったそうです。
住職がそれまでは一切禁止にしていたこの庭園の写真撮影を許可したのは、それがきっかけだったとのこと。
それはこの景観をひとりでも多くの人に記録してほしい、そして知ってほしいという思いで開放したのですが、こうした活動がきっかけで多くの文化人たちの共感を得て(もちろんこれ以外にも様々な活動をしたのでしょうが)京都市の眺望景観創生条例の保護対象となり、現在もこの景観が守られている、というストーリーがあるのだそうです。
僕は庭園のことは正直よくわかりません。
でもそんな僕でもこの庭園の美しさというかパワーは十二分に感じるものでした。
かつて京都にあった多くの借景が、周辺地域の開発により次々と破壊されていく中、京都最後の借景ともいわれるこの圓通寺の庭園の景観は、いつもまでも守ってほしい、と真剣に思いました。
【番外編】そして再訪
この紅葉を見にいった数年後の春、たまたま近くまで行ったので、ふと思い出して圓通寺を再訪してみました。
春霞がかかって紅葉シーズンよりはいくぶんうっすらとした印象の比叡山でしたが、住職の思いと同じく、それはそのままそこにありました。
<2018年11月訪問> 最新の情報は公式サイト等でご確認ください
圓通寺の基本情報
圓通寺への旅
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