富山県が立山の歴史や立山信仰、そしてその舞台となった自然を紹介するために作った広域分散型博物館が「立山博物館」。
本質は、自治体が作った極めて文化的で真面目な施設だと思うのですが、その施設のひとつである「まんだら遊苑」が、なんだか県の施設というより趣味の悪いB級スポットみたいだぞ(ほめ言葉)、という話を聞いていたのですが、実際に行ってみると、そこは想像以上にワンダーな場所だったのです。
富山県【立山博物館】とは?
富山県「立山博物館」があるのは、富山地方鉄道立山線の「千垣駅」から約2kmの場所。
千垣駅から立山町営バスで「雄山神社前」で行く方法もあるのですが、本数が少ないため、歩いて行ってみることにしました。
立山連峰を正面に眺めながら県道の坂道を30分ほど登ると、かつて立山信仰の拠点であった芦峅寺の集落が現れ、芦峅雄山神社の脇に立山博物館への入口があります。
立山博物館は、13ヘクタールという広い敷地に、教界・聖界・遊界と名付けられた3つのゾーンで構成されていて、それぞれのゾーンごとに施設が配置されています。
こちらがその中核となる施設「展示館」。
ここには常設展示室のほか企画展示室やミュージアムショップなどがあります。
「室堂」の雪の大谷イメージして造られた白い螺旋階段を登ると、立山信仰の世界を知ることができる常設展示室がありますが、残念ながら展示室内は撮影禁止。
ところが展示室を出ると「絶対ここで撮影しろよな!」くらいの勢いで「撮影スポット」と書かれた場所がありました。
いきなりゆるい。
これはかつて立山に住んでいた「くたべ」と呼ばれる妖怪で、「顔は人、体は獣」なのですが、流行り病の予言や病避けを行っていたという言い伝えがあるため、コロナウイルスの流行に伴って話題となっているのだそうです。
にしてもゆるすぎないか?富山県!
こんなところしか撮影させないからワンダーとか言われるのではないか?
「立山博物館」聖界ゾーンへ
展示室を出て、立山博物館の広大な屋外ゾーンへと向かいます。
県道を渡って聖界ゾーンと呼ばれる場所に入り閻魔堂を抜けると現れる真っ赤な欄干の橋が「布橋」。
この下を流れるうば谷川を境に手前が俗界(地界)、向こうが聖界(天界)となっているのだそうです。
聖界ゾーンのメインが体験型映像ホールの「遙望館」。
ここは大型3面スクリーンと最新の音響装置で、立山の自然とかつての立山信仰のこころが疑似体験できる施設なのですが、この映像がこれまたワンダー。
立山の大自然の映像は美しかったし、立山信仰についてもよくわかったんだけど、最後のほうで話の流れが「現代文明がこのまま進むと・・・」みたいになってきたあと、突然B級ドキュメンタリー的な香ばしい作品となります。
これはぜひ皆さんご自身でご確認いただければと思うのですが、最後が意外とすごかった。
映像が終了するとすぐにスクリーンが上がり、真っ暗だった会場のはるか前方に立山連峰の大日岳が現れるのです。
この感動を演出するために、あえて最後にB級的なサムシングを表現したのであれば、それはそれですごいギャップ戦略だぞ、富山県!
そしていよいよ「まんだら遊苑」へ
遙望館をあとにして、立山連峰を眺めながら美しい庭や森を抜けると、いよいよ「まんだら遊苑」のある遊界ゾーンに入ります。
「まんだら遊苑」とは、広大な敷地に立山曼荼羅の世界を立体的に構築した施設なのですが、そもそも「立山曼荼羅」というのは立山信仰の世界観を大画面に描いた宗教絵画で、芦峅寺や岩峅寺集落の宿坊の衆徒たちは各地に出向き、この曼荼羅で絵解きをしながら、信仰を広めていったのだそうです。
その「まんだら遊苑」のメインアトラクション、もとい、施設が、「立山曼荼羅」にいう地獄の世界を表現した「地界」。
今でも「地獄めぐり」ができる寺院が全国にいくつか残っていますが、どれもB級スポットのガイドブックに登場してしまうレベルのレトロでディープなシロモノとなっています。
しかしさすがにここは天下の富山県の施設だし、地獄にしては珍しく写真も動画も撮り放題、と自信満々なので、きっとB級扱いされるようなものではないと思ってきたのですが、早くも中からは
うごぉぉぉぉぉぉ・・・うがぁぁぁぁぁ
みたいな声がもれ聞こえてきます。
小さな地獄入口からしゃがみこんで中に入ると、そこは「地獄百景」。いきなり真っ赤!
これを鳴らさないと地獄からは一歩も外には出さんぞ、というくらいの勢いで鐘があったので鳴らしてみると、さらに真っ赤に燃え上がっちゃってビックリ。
絶頂期のジュリアナ東京か六本木のヴェルファーレかと思うような閃光が飛び交う通路を抜けます。
そして最後は地獄の叫びを聞かされながら、さらに細くなった真っ赤な道を行かされます。
怖くて先に進めなくなったジュリアナボディコンギャルがいたら、やさしく天国に導いてあげようかと思いましたが、残念ながらひとっこひとりいません。
場末のお化け屋敷みたいな鬼の姿もなく、なかなか洗練されてる地獄でした。さすが富山県!
まんだら遊苑「天界」はアートの世界?
地獄を抜けてこの世に戻ってきたと思ったら、その先も地獄でした。
しかしそこは一見地獄っぽくない、地獄と自然が融合した空間なのだそうです。
これは地獄の針山をイメージしたモニュメント「餓鬼の針山」。近付いてみるとなんだか不思議なリズムの鐘のような、虫の音のようなものが聞こえてきて、確かに「あの世」にいる気分になれます。
このなんの柱もなく常願寺川に向かって突き出ているのは「精霊橋」。
この橋の先端にある鐘を鳴らすと、現世に復帰するための救済を得られるのだそうですが、行くては足元も両サイドもシースルー。
高所恐怖症の僕にとってはまあまあ怖いミッションでしたが、現世に戻らないわけにはいかないので、先端にシースルーのジュリアナボディコン女子が待ってるという前提で渡ってみました。
こっわー!
ジュリアナ女子、全然いないし!
ここで地界は終わり、最後に「天界」に入ります。
天界とはいわゆる浄土の世界のことのようで、古代インドの仏教の世界の中心にそびえる山「須弥山」をイメージした天界広場に出ます。
そのあとは突然、7人の現代のアーティストや建築家によって造られた、迷路のようなアートの小部屋が続きます。
たとえばこれは胎内に帰ったような気持ちで瞑想することができる天卵宮(てんらんきゅう)。
先客がいて入れなかったけど!
そして最後に待ち受けているのが「闇の道」。
文字通り、うねうねと腸のように曲がりくねった真っ暗な空間が続く道ですが、これは立山が女人禁制だった江戸時代、極楽往生を願う女性の救済のために行われた儀式である「布橋灌頂会」をイメージしたものだと言います。
写真で見るとそうでもないですが、中はしっかり真っ暗で、ひとりだとわりと心細くなります。もちろんジュリアナ女子のかけらもありません。
そんなわけで、晴れて地上に出ると、本当に異界から現世に戻ってきたかのような気分になります。
まんだら遊苑、ガチでワンダーだって聞いてたけど、富山県がマジで作った地獄だけじゃなく、その他いろいろ含めて予想以上にワンダーでした。
「富山県立山博物館」なんてねこをかぶったような真面目な名前にだまされちゃいけませんよ。ここ、必見のB級、もとい、A級スポットです!
<2023年5月訪問> 最新の情報は公式サイト等でご確認ください
富山県「立山博物館」まんだら遊苑への旅
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