映画「ドライブ・マイ・カー」は、村上春樹の短編小説を原作として濱口竜介監督により2021年に公開され、第94回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞するなど、世界各国で数多くの映画賞を受賞した話題の作品。
この作品のロケ地は広島県が中心だったのですが、終盤のハイライトが撮られた場所はなんと北海道の赤平市。チョイス渋すぎ!
ということで、赤平の「ドライブ・マイ・カー」にまつわる場所に行ってみたお話です。
映画「ドライブ・マイ・カー」がなぜ赤平で?
「ドライブ・マイ・カー」は、村上春樹の短編集「女のいない男たち」に収録された短編小説。
今はすっかり文学界からは距離を置いていますが、僕の大学時代の卒論は「村上春樹論~その物語モチーフの研究~」。
まだ「ノルウェイの森」も書いていなかった頃の、初期の村上春樹研究の若き旗手として世界中から期待されていたかもしれない僕ですので、もちろん今でも彼の作品はチェックしていて、映画化が決まる前からこの物語を読んでいたのです。
ネタバレになると悪いので、ドライブ・マイ・カーのあらすじはさくっとAIに聞いたものを載せておきますが、これでだいたい70点くらいの回答です。
「ドライブ・マイ・カー」のあらすじは、舞台俳優兼演出家の家福悠介が、妻の死後に発見した彼女の不倫や日記を通して、自分の過去や仕事について考え直す物語です。家福は、黄色いサーブ900コンバーティブルを運転する若い女性と出会い、彼女との会話や、多言語で上演する「ワーニャ伯父さん」の演出を通して、妻との関係や自分の人生について深く探求していきます。
Bing AI
映画の大半は広島周辺がロケ地となっているのですが、物語の最後、主人公の専属ドライバーをつとめる「みさき」が自分の故郷である北海道の上十二滝村(架空の村)へと戻るシーンで、みさきの生家の跡地として登場したのが赤平でした(雪の中で花を投げるシーンですね)。
ちなみに村上春樹の初期の長編「羊をめぐる冒険」には「十二滝町」という場所が登場するのですが、そこは、もろもろの描写から北海道の美深町あたりがその設定に近いのではないかと言われています。
「ドライブ・マイ・カー」ロケ地は赤平のズリ山だった
赤平でのロケ地とされているのが、市内にある「ズリ山」といわれる場所。
ズリ山というのは、石炭を掘った際、坑内から出る岩石などの捨石(俗称ズリ)が積み上げられてできた山のこと。炭鉱の町だった赤平にはいくつものズリ山があり、その中のひとつが今回のロケで使われたのだと言います。
ただ、実際のロケ地は立ち入り禁止の場所となっているので、標高197.65m、777段の階段がつけられ、ズリ山階段としては日本一のスケールを誇る「北炭赤間炭鉱ズリ山」の入口にロケ地の看板が設置されています。
せっかくここまで来たので頂上まで登ってみることにしました。
案内板はどれもゆるいのですが、777段を一気に登るのって、わりと大変。
ずっと階段が一直線に続くので、たまに気休めになる平地の部分がほぼないんですよ。
ようやく頂上に到着すると、市内を一望する展望スポットになっていました。
真下に見える茶色の大きな建物が、赤平駅(市の交流センターにもなっています)。
そうなんです、このズリ山入口は駅の真裏にあるのですが、駅から直接こちら側に来る道がなく、街なかを通って1.5キロくらい迂回しなくちゃならないんです。駅裏への歩道橋を一本かけてくれるだけでいいんですが、財政的に・・・苦しいんですよね。
これは町の西側、滝川方面の眺望。
そしてこちらが町の東側、芦別・富良野方面。
右下にある異形の建物が「旧住友赤平炭鉱立坑櫓」。ここは合わせてぜひ行ってほしい場所です!
「珍来」の「ヘルメットとんかつラーメン」
赤平に「ドライブ・マイ・カー」ロケ地めぐりに来たのなら、訪問必須の場所が中華「珍来」。
このお店に入ると目に飛び込んでくるのが、「ドライブ・マイ・カー」のアカデミー賞受賞を祝う掲示の数々(ただしほぼ手作り)。
映画主演の西島秀俊さんのサインも飾ってありますよ!
なんでも、「ドライブ・マイ・カー」の赤平ロケの際、真冬の撮影現場付近で出演陣やスタッフに食事提供したのがこのお店だということなのです。
この「珍来」、実は北海道発の人気バラエティ番組「水曜どうでしょう」の聖地でもあります。
「水曜どうでしょう」に出演するミスターこと鈴井貴之さんが赤平の出身ということで、たびたび番組にも登場し、大泉洋さんをはじめキャストやスタッフがここを訪れているんだそうです。
そんな珍来の名物が、赤平の炭鉱メシ。
炭鉱での肉体労働のため、手早くスタミナがつけられるという理由で、ここ赤平ではトンカツとラーメンは定番の組み合わせでした。
そんなトンカツラーメンを「水曜どうでしょう」風にアレンジしたのが、この「ヘルメットトンカツラーメン」。
これは赤平を舞台として収録された番組内の「北海道で家、建てます」プロジェクトで使われていた黄色い「どうでしょうヘルメット」をモチーフに、「ど」と書かれているどんぶりで提供されています。
シンプルな中華そばの上にトンカツが1枚どーんと載っていますが、意外とあっさりしてて普通にペロッといけちゃいます。おいしい。
お店を出るときにどこから来たのか尋ねられたので東京です、と答えると、店内に貼ってある地図にピンを刺して行ってください、と言われました。
きっと全国から「どうでしょう」ファン(「藩士」というらしいです)が来るのでしょう。さすがに東京の地図にはピンがたくさん刺してあったのですが、港区白金台とか渋谷区松濤とかいった高級住宅地には藩士はいないらしく、さびしい感じがしたのでそっとそのあたりに刺しておきました。
喫茶「マンデリン」の着物のママ
「珍来」があったのは赤平駅前にある「やすらい通り」の一画。
「やすらい」とはいい得て妙なネーミングですね。かつて炭都だった赤平で、仕事を終えた鉱員たちがここに繰り出して、文字通り、つかの間の「やすらい」を楽しんでいた記憶がよみがえるようです。
その「やすらい通り」を抜けて赤平駅に戻る途中で発見したのが、喫茶「マンデリン」。
よくみると建物も味があるし、「マンデリン」好きだし、これはもう入るしかない、という感じ。
店内はカウンターのほか奥の方までテーブル席が並び、思ったよりずっと広いお店でした。
メニューもめちゃめちゃ豊富で、お腹空かせてランチに来たら、絶対迷うやつですね。
ところが、お店をきりもりしているのは着物姿の、お歳を召したママがひとり。
僕はコーヒーだけだったので、なんら問題なく出てきたのですが、たまたま横のテーブルに来たお母さんと小さな息子がいろいろと注文するのですが、複雑なメニューは今日はできないものばかり。
結局、4番目か5番目に選んだカレーライスだったかミートソースだったかで落ち着いたようでした。
しかたないよね、ママのワンオペだもんね。
炭鉱の閉山で、6万人近かった人口が、今や1万人を切るところまで減ってしまったこの赤平で、こうしてお店を続けていてくれるだけでもありがたい、と思いました。
<2023年7月訪問> 最新の情報は公式サイト等でご確認ください
赤平「ドライブ・マイ・カー」ロケ地への旅
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