新潟と福島の県境、阿賀野川に沿った山間の小さな盆地の町、阿賀町。
僕が会社に入って最初に厳しい指導を受けたパイセンが、数年前から半ばこの阿賀町に移り住んで、町おこしをしているのです。
いつか行きたいとは思っていたので、時々パイセンが東京に帰ってきて飲んだりすると「今度行きますよー」と言い続けているくせになかなか行けず、だんだん社交辞令みたいになっていたのでした。
たまたま阿賀町と山一つ隔てた西会津に行く機会があったので、ちょっと連絡してみると
「来い!絶対来い!死んでも来い!」
と想定通りの答え。
はいはい、パイセン、死んでも行きます!
「SLばんえつ物語」運休の巻
会津若松から新潟方面へは週末を中心に「SLばんえつ物語」という列車があったので、この列車で阿賀町へ向かおうと思ったのですが、なんとSLくんが今日は体調不良でお休みとのこと。
代わりに客車を引っ張るのはDF10系?というディーセル機関車。
ま、僕はどうしてもSLに乗りたかったわけじゃないので、これでも別にいいのですが、SLの指定券を持ってる人はそのままその座席に座れるけど、あとで払い戻してくれるとのこと。
引っ張られる車両はいつもと変わらず、ロビーカーがあったり展望車があったり、車内でのイベントもいつも通り行われていたので、これ結構お得なんじゃない?
喜多方を出ると列車は阿賀野川に沿った渓谷の中を走り、パイセンとの待ち合わせ場所、日出谷という小さな駅に到着します。
阿賀町の中心はここから2つ先の津川駅なのですが、日出谷で降りろ、と言ったのは何か理由があるのでしょう。
駅のホームで待っていたパイセン、僕を見つけるや否や、早く車に乗れ、と挨拶もそこそこにハンドルを握ります。
そして駅を出てすぐの橋の上に車を停めると同時に、列車が阿賀川を渡りはじめます。
おお、パイセン、そーゆーことだったんですね!
これぞ以心伝心、無駄に毎日終電まで飲みに連れ回されてたわけじゃないんですね!
阿賀町の清く正しく美しい夜
パイセンが用意してくれたホテルチェックインすると、次に向かったのは町内のスーパー。
パイセン、ビールとかからあげとか弁当とか買い物かごに入れまくってます。
も、もしかして家飲みっすか?
と思ってると、ここでパイセンの阿賀町での仕事のパートナー、T島さん登場。
さー、行きましょう!
ってどこいくんすか!
T島さんの車に乗って向かったのが津川ICより少し先の高台にある「芦沢高原ハーバルパーク」というところ。
ここねー、星がきれいなんだよ!
はっ?パイセン!星っすか?
かつて清く正しく美しい好青年だった僕がパイセンに、飲む、打つ、(以下略)ばっかり教え込まれて、すっかり酸いも甘いも知ったナイスミドルに育ってしまったのに、いまさら清く正しく美しくに戻れというのですかっ!
とかいいつつも、みんななんか立派なカメラと三脚用意してるので、僕も負けじと持ってきてたミニ三脚を立ててみます。
買ってきたビールや弁当をつまみながら暗くなるのを待っていると、おおお、ホントにすごいじゃないか、阿賀町の星空!
僕のカメラでもこれだけ撮れるレベルなので、実際はもっとすごいと想像してください。
北斗七星もほらっ!
意外と楽しいぞ、おっさん二人とナイスミドルひとりの星空観賞!
じゃー次、行こう!
おおお、さすがパイセン!
次こそ酸いも甘いも知った僕のための阿賀町ナイトのはじまりですなっ!
とか思ってたら、さらに山の方にどんどん進んでいくぞ。
この辺かな、とT島さんが車を停めると、
おおおおお、蛍が飛んどる!
今日は星はイマイチだったけど、蛍はばっちり見られたからまあよかったろっ?
明日はもっとすごいぞ!
僕を宿の前で降ろし、パイセンはそんな一言を残して去っていきました。
狐の嫁入り行列
翌朝、ホテルに迎えに来てくれたパイセンとまず最初に向かったのは町の中心部にある阿賀町観光協会、パイセンの今の職場です。
ここは「狐の嫁入り屋敷」という資料館も兼ねていて、阿賀町最大の伝統行事「狐の嫁入り行列」に関する資料館やカフェ、お土産どころなどが同居しています。
阿賀町は新潟県の中越地方最東部にある人口1万人強の山あいの町。4つの町村が合併してできたため、面積は新潟県内で3番目に大きく、東京23区の1.5倍くらいあります。
町のシンボルでもある麒麟山(きりんざん)の対岸に市街地が開けています。
阿賀町の中心、旧津川町はその阿賀野川の水運で栄えた場所。
このあたりには河港があり、渡し船なんかも行きかっていたんだそうです。
「狐の嫁入り行列」というのは、この津川地区で毎年5月3日に開催される伝統行事で、人口5000人の津川地区に4~5万人の観客が訪れる、というこの阿賀町最大のお祭り。
麒麟山(きりんざん)にはかつて狐が住んでいて、この山には昔から狐火と呼ばれる不思議な明かりが見られ、数多くの伝説があるのだそうです。
(狐火というのは、本来火の気のないところに、提灯や松明のような怪火が一列になって現れ、ついたり消えたりするものですな)
この麒麟山の不思議な明かりは、まるで狐が嫁入り行列をしているように見えたことから、狐の嫁入り行列伝説が生まれ、それがこのお祭りになったのだそうです。
お祭り当日、狐に扮した花嫁と仲人、お供ら108人の行列がユニークな狐の動作を織り交ぜながら町内を練り歩き、阿賀野川の水上ステージで結婚式・披露宴を行い、最後は花嫁と花婿が渡し舟に乗って川を渡り、霞がかった麒麟山に消え、山には狐火が灯る、というものなんだそうです。
話を聞くだけでも幻想的なお祭りですな。
狐にメイクされた花嫁もさぞかし艶っぽいことでしょう。
うぉぉぉぉぉぉー、セクシーすぐる!
そんなこんなで祭り当日はたくさん人が来るんだけど、この観光資源をなかなか活かしきれてないんだよなー、とパイセン。
そこで折り入ってチミにお願いがある、とパイセン。
ちょっとさ、ここに観光客がわんさか来るような物語を書いてくれねーかなー。
・・・そう来ましたか、パイセン。
どうりで毒まんじゅう食わされてる感があったんですよね、昨日から。
僕が書いたらせくすぃーな女狐で溢れかえりますよ、この町。
阿賀野川カヌー遊び
次にパイセンと向かった先は阿賀野川の水辺の建物。
おー、いらっしゃい!
と迎えてくれたのは、昨日に続きT島さん!
T島さん、神出鬼没過ぎやぞ!
そんでもって僕をカヌーに乗せて、阿賀野川に引きずり出します。
カ、カ、カ、カヌーっすか、パイセン。
昔、パイセンにそそのかされて、僕が激流の相模川でカヌー転覆してケータイお陀仏にしたのお忘れっすか?
大丈夫、大丈夫、今日はチミのためにカヌー漕いでくれる美女ガイドが一緒に乗ってくれっから。
あ、それならOKっす、パイセン!
そんなわけで、N女子大体育会でカヌー競技をやっていた、というこれ以上ないくらいのガイド女子が僕の後ろにピタッと座って漕いでくれたので、僕はのほほーんと座ってただけでした。
私、漕ぎますから自由に写真とか撮っててください
とカヌー女子に言われて、いやー、カヌーサイコー!
阿賀野川もダムにせき止められていて水の流れがないので、風がないと水鏡がきれいですな。
今日はここからすごいもん見せたろーと思って!
とパイセン。
なんすかなんすか、またとんでもないことを考えてるんすか?
パイセン、昔から発想力がとにかくぶっ飛んでて、今の僕に人並ならぬ妄想力が養われたのは何を隠そう、このパイセンのおかげです。
でもよく風呂敷広げすぎちゃって、おいおいこれどーすんだよ、ってこともたくさんあったのですが、だいじょーぶだいじょーぶって言ったまま全然だいじょーぶじゃなかったことも数知れず。
何を隠そう、今の僕が人並ならぬテキトーな楽観論者になったのも、このパイセンのおかげです。
パイセン、感謝してます!おかげで人生けっこう楽しいっすよ。
と、パイセンと過ごした日々が走馬灯のように思い起こされて少し感傷にひたっていると、
あれっ?おかしいなー
とかブツブツ言ってます、パイセンが。
やがて対岸からコトコトと列車のような音がして、目の前を磐越西線のディーゼルカーが走り抜けていきます。
あれれれれれれ?
とパイセン。
ごめん、ホントはここSLが通るはずだったんだけど、今日もまだ故障が治ってないらしくって運休だってよ。
・・・ドンマイ!パイセン!
さらば、パイセン!
パイセンのサプライズ演出も予想通り空振りに終わり、どうやら有終の美を飾った、ということで楽しかった阿賀町をあとにすることにします。
そんなわけで津川駅。
ちゃんとかわいい女狐ちゃんもいるんですが、もっとド派手にやりたいですね。
そう、せめてSLが着く時間帯くらいは女狐たちに出迎えてほしい。
そして到着客みんなに狐のメイクをして、狐の渡し船で雁木づくりの狐町散策に案内してほしい。
そんでもって夜は麒麟山に狐火を焚いてほしい。
狐火と星と蛍とを鑑賞できる回遊バスを運行してほしい。
そんぐらいトンがった企画、パイセンならきっとできるはずですから!
<2018年7月訪問つづく> 最新の情報は公式サイト等でご確認ください
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阿賀町への旅
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