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北海道の北のほう、人口約5000人にも満たない小さな町に、まるで村上春樹の「羊をめぐる冒険」に出てくるかのような小さなホテルがあるのだといいます。
その話を聞いた瞬間、これは僕が行かなくてはならないホテルだ、と思ったのでした。
「羊をめぐる冒険ホテル」との出会い
それは2019年の夏だったでしょうか。
とある友人のFacebookのタイムラインから、こんなタイトルの記事が流れてきたのでした。
『羊をめぐる冒険』から生まれた、客室3室だけのささやかなホテルを造るという新しい冒険。
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久しぶりに衝撃が走りました。
これは僕が行かなくちゃならないホテルだ、と。
なぜならば、僕の卒業論文は、これ。
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これっ。
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これっ!
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「あらまあ、風祭さまって、心とかお顔と同じくらい字がきれいなのねっ♡」
って、そこじゃあないぜ、ベイベー!
そうなんです、僕の卒業論文は、村上春樹の「羊をめぐる冒険」。
しかも平成2年ですよ!
「ノルウェイの森」とかが出て、世の中に「ハルキスト」なる輩がうじゃうじゃ生まれたり、ノーベル文学賞候補と騒がれる前の、まだまだ知る人ぞ知る、というレベルの頃の村上春樹論ですよ。
しかし当時は全く理解されませんでしたなー。
古くさい国立大学の国語国文学研究室には、二葉亭四迷とか、源氏物語とか、自然主義とか新古今和歌集とかが研究のメインで、村上春樹を読んだことのある教官なんか皆無でしたからね。
「お前の卒論評価するために、このつまらない小説を読まなきゃならないのが苦痛だ」
とか言われましたからね、当時近代文学の権威と言われていた指導教官に。
しかしこの秋、そんな母校でも「村上春樹国際シンポジウム」が開かれましたからね。
隔世の感がありますな。
ま、とにかくうちの大学で最初に村上春樹を研究したのは僕だったんですよっ!
前置き長くなりましたが、こうして「羊をめぐる冒険ホテル」と出会った僕は、さっそくその秋、「羊をめぐる冒険ホテル」をめぐる冒険に出かけたのでした。
「青い星通信社」の由来
そのホテルの名は「青い星通信社」。
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北海道の旭川と稚内の中間あたり、人口5000人にも満たない美深町という小さな町のはずれにあります。
青い星通信社はたった3室だけの小さなホテルなので、ひとり旅だとゲストは僕だけ、ということもあるかも、と思って今回はライター仲間3人でやってきたのでした。
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ホテルの敷地内に到着すると、眼の前には今にも羊飼いを先頭に、牧羊犬に追われた羊たちがぞろぞろと現れてきそうな広大な空き地が広がっています。
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なぜここが「羊をめぐる冒険」をモチーフにしたホテルなのかというと、この作品の舞台となる「北海道十二滝町」は、ここ「美深町」をモデルに書かれているのではないか、と言われているからなのです。
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部屋に荷物を置き、ホテルの外へブラブラと出てみると、すぐわきに宗谷本線の小さな踏切がありました。
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ここは美深の二つほど北にある「紋穂内駅」から線路沿いに歩いて5分ほどの場所にあるのだそうです。
1日に何本もないはずの、たった1両のディーゼルカーがコトコトと音を立てて通り、その姿を少しずつ小さくしながらも、いつまでもいつまでも視界から消えません。
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反対側には道北の母なる大河、天塩川。
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このいかつい青煉瓦の建物は、かつてこの近くの山にあった通信施設を保守していた警察官の官舎だったのだそうです。
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オーナーの星野さんは、その廃屋を見た瞬間に、ここでホテルをやろう、と決めたのだそうです。
青い煉瓦の建物を星野さんが運営する、元通信施設。
「青い星通信社」の名前は、そんなところから来ているのでしょうか?
(追記:星野さん曰く違うのだそうです。もっと前から広告コピー制作や書籍編集の会社名として使っていたようです)
「青い星通信社」 の館内へ
ロビーラウンジには草原をバックに読書ができるライブラリがありました。
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本棚には「羊をめぐる冒険」をはじめとする村上春樹さんの作品はもちろん、現代日本文学を代表する小説作品、芸術性の高い絵本やコミック、画集や写真集なども揃えられていて、ゲストは何杯でも自由に味わうことができる珈琲のカップを手に、ここで(あるいは客室に持ち帰って)ゆっくりと過ごすことができます。
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青い星通信社の建物は2つの棟が合わさっていて、手前側がロビーラウンジとダイニング棟、異界への入口のような廊下の狭い煉瓦の奥が客室棟となっています。
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客室は「水脈(みお/Waterway)」「火影(ほかげ/Firelight)」「風笛(かざぶえ/Windwhistle)」の3つだけ。
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それぞれ間取りやインテリア、そして窓からの眺望も異なりますが、どの客室にもテレビはありません。
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その代わりに置かれているのはブルートゥースの小型スピーカーと、一冊の小説。
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小説は、オーナーの星野さんの作品だったのだそうですが、僕は滞在中そのことに気づかず、中身を読むことはできませんでした。
(友人のひとりは読み切ってしまったようです)
東京で著名な雑誌の編集長をしていた星野さんが、この辺境の地でホテルをはじめた理由は「成り行きとか巡り合わせ、としか言いようがない」とのことですが、そのきっかけは「羊をめぐる冒険」。
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村上春樹の「羊をめぐる冒険」の舞台と言われている場所が美深町だ、と聞いた星野さんが、それ以来この町に通うようになったことにより、この青い煉瓦の建物との運命的な出会いがあったのだと言います。
星野さんはきっと僕以上に村上春樹さんに思い入れがあるのでしょう。
卒論を仕上げてしまったあとは、趣味のレベルでテキトーに読み流している僕なんかとはくらべものにならないくらい、村上文学について深く考察しているような気がします。
(ちなみに星野さんは、僕たちが宿泊した数日後、僕の母校での「村上春樹国際シンポジウム」で講演する予定とのことでした)
「青い星通信社」の夜
ロビーライブラリ兼ダイニングは、夜になるとまた雰囲気が変わります。
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この日は4人で貸切にしてしまったので、他のお客さんはいませんでしたが、こんな親密な空間なので、知らない人同士でも誰もが打ち解けて話せるようになるのだと言います。
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僕はグルメではないのであまり料理のことについてはうまく書けないのですが、ここのディナーはとてもフレンドリーで、素材が良くて、手が込んだ素晴らしいものでした。
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ディナータイムが終わると、このラウンジはそのままBARに変身するのですが、うかつなことに僕はベッドの上でうとうとしているうちに、そのまま朝まで寝込んでしまったのでした。
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一緒に来た女子二人はそのままラウンジに残り、星野さんからご自身の小説や、村上春樹についてたっぷり話を聞いたようです。
もちろん僕もその話を聞いてみたかったけど、なんだか話せば話すほど自分のボロが出ちゃうような気もするので、これはこれでよかったのかもしれませんね。
実はこのホテルに来たがっていた友人はもっとたくさんいたのですが、定員の関係や時期的な問題で今年は叶わなかったので、また来年以降も、この青い星通信社にやってくるような気がしてなりません。
<2019年9月訪問> 最新の情報は公式サイト等でご確認ください
青い星通信社の基本情報
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