かつて首都圏のJRの通勤電車の車内吊り広告で、広島県が大々的な観光キャンペーンをやっていたことがありました。
その中の1枚の写真に、僕はすっかり魅せられてしまったのでした。
そこにはこんな感じの町並が写っていたのでした。
その場所は「御手洗(みたらい)」という、瀬戸内に浮かぶ島にある小さな集落でした。
今まで全く聞いたこともない場所に、こんなに美しい町並みがあることを知って、僕はちょっとショックでした。
そしてすぐに「いつか行きたい場所ノート」に書き込んで、大切にとっておいたのでした。
御手洗は竹原から高速船でアクセス
御手洗というのは広島県の呉市にある大崎下島にある港町。
住所は呉市ですが、呉の中心地よりは四国のほうが近く、高速船も広島の竹原フェリーターミナルから発着します。
高速船は途中、瀬戸内の島々に立ち寄りながら、曇天の瀬戸内海を進み、竹原を出て約45分で御手洗港に到着します。
海に短い桟橋がつき出ているだけなので、港というよりは船着場、という感じです。
冬休みとはいえ、降りたのは僕一人。
船着場には、御手洗港の番人のようなおじいさんがひとり待っていて、僕が降りたのを見るとどこから来たのか、と話しかけてきます。
東京から、と僕が答えると、地図をやるから来い、と言ってチケット売り場兼待合所となっている建物に案内されました。
この地図は本来は潮待ち館という観光案内所で配布しているらしいのですが、朝早くて空いていないし、そもそももう年末年始で閉まっているかもしれないということでした。
おじいさんはこの地図をもとに散策コースの説明をしてくれるのですが、ひとつひとつのポイントをかなり詳細に話すので、なかなか終わりません。
10分くらいかかってようやく解説が終わり、僕は晴れて解放されたのですが、確かにこの地図はわかりやすくて便利だし、おじいさんの説明も、あとあと考えると結構参考になりました。
いつか来たことのあるような懐かしい道
おじいさんにまずはこの道を行け、と言われて船着場から正面に延びる狭い路地を進みます。
すると、すぐに御手洗のメインストリート、常磐町通りに出ます。
すぐにあの車内吊り広告と同じグラフィックの町並みが現れます。
常盤町通り突き当りのまがりみち。
あー、2年越しの念願、果たせてよかった!というカットです。
案内図通りに進み、菅原道真が祭られている「天満宮」へ。
「御手洗」という地名は、菅原道真が大宰府に左遷された際、九州に向う途中で、この地に船を着け、口をすすぎ、み手を洗われ、お祈りをしたことが由来の一つとされていて、それが「菅公の井戸」として今でも信仰されています。
天満宮のもうひとつの見どころは可能門。
本殿の下を願いを込めながらくぐると、それが叶うと言われているそうです。
御手洗の町は昭和・大正・明治のまま
天満宮を出ると、すぐ目の前が金子邸。
小さい集落なので、次から次へと見どころが現れます。
ここは幕末の頃、倒幕に向けて長州藩と広島藩の条約(御手洗条約)が結ばれた場所でした。
昔から風待ち、潮待ちの天然の良港とされていた御手洗は人と情報が集まる要衝地だったため、こうした歴史的な出来事も多かったようです。
また、港の周辺には船員たちが休憩をとる茶屋や船宿が並んでいて、昭和に入ってからはいわゆる“色町”で賑わっていたのですが、昭和33年に売春防止法が施行されて以降、島の景気が落ち込んでしまい、そのまま“冷凍保存”されたかのように町が残っているのだと言います。
御手洗の通りには瀟洒な洋館ふうの建物もたくさん残っています。
御手洗は病院もこんな感じ。
明治から続く時計屋さん、旧松浦時計店(現在は新光時計店)があります。
このお店のシンボル的な看板となっている、赤い時計。
また、お店の中には、140年にわたって時を刻み続けている全長2mのアメリカ・アンソニア社製の大きなのっぽの古時計もあり、どんな時計でも100%修理を目標に、熟練の技で直してくれるということで、全国からたくさんの時計が寄せられるそうです。
お店のホームページにこんな一文がありました。
よく「高級時計じゃないんですけど、大丈夫ですか?」という質問をされます。
当店は田舎の普通の時計屋です。当店で対応できるものであれば、どんな時計でも構いません。
腕時計・掛時計・懐中時計・置時計・目覚まし時計などなど・・・メーカーは問いません。
家の奥で眠っている「思い出の時計」がございましたら、ぜひ一度ご相談ください。
素晴らしいですよね。
まさにプロの時計屋さん。だから場所や時代に関係なく、100年以上も続いているのでしょう。
時計屋さんの先には「乙女座」。
ここは昭和初期の映画館・劇場を復元した もので、中には「花道」や、「奈落」、2階部分には「桟敷席」が設けられているそうです(年末休業で中に入れず)。
おじいさんからもらった案内地図によると、これは乙女が泣いているように見えるということなんですが、どーですか?
「乙女の心読解検定」準一級の僕レベルになると、なんで泣いてるのかの理由までわかるのですが、みなさんどーですか?
足の長すぎる小学生、発見!
御手洗の中央部に小高い丘があるので登ってみます。
お寺の階段の前に、手作りっぽい道路標識が見えてきました。
通称、「足の長すぎる小学生」
隠れた、しかし実に秀逸なB級看板だと思います。
みかん畑の中、高台にある展望台への遊歩道があったので上ってみます。
途中から見下ろす御手洗の家並み。
頂上からの眺め。
もう少し天気がよければ、きっと瀬戸内の島々がもっときれいなはずです。
港に戻る途中にあった雑貨屋のショーウィンドウにいた、招き猫と三毛猫。
このほか海岸沿いの高燈籠なども含めぐるっと回っても約1時間30分ちょっと。
さっきのおじいさんのところで帰りの乗船券を買い終えて外に出ようとすると、入れ違いに中国人の女の子3人組がやってきてなにやら船に乗りたい様子。
おじいちゃん、大丈夫かな、と思って見ていると、彼女たちの言葉を聞きながらしっかりとうなずいていたので、流暢な中国語でペラペラと返答をはじめるかと思いきや、窓口から外に出てきて、素晴らしいボディーランゲージがはじまりました。
行先の港の名前がある掲示を指で示しながら、「竹原」で彼女たちを頷かせ、料金は自ら1380円の組み合わせサンプルを作って提示しています。
訪日外国人旅行者の波は、こうした「日本語オンリー」の小さな町にも押し寄せているのでしょうが、意外とみんな大丈夫なんだな、と思わせる一瞬でした。
<2014年12月訪問> 最新の情報は公式サイト等でご確認ください
御手洗の基本情報
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