「月が出た出た 月が出た ヨイヨイ」のフレーズで知られる炭鉱節の発祥は福岡・筑豊の田川市。
筑豊出身の友達に言わせると、筑豊の中でも最も筑豊っぽい、いわば「ちくほーおぶちくほー」は田川なのだと言います。
その田川にあったのが、かつて筑豊随一の規模を誇った三井田川鉱業所伊田竪坑。
田川伊田駅のホームからどーんと見える二本の煙突は田川のシンボル。その跡地には現在、田川市石炭・歴史博物館があるということだったので、さっそく行ってみましたよ。
炭坑節発祥の地、田川
月が出た出た 月が出た ヨイヨイ
三池炭坑の 上に出た
あんまり煙突が 高いので
さぞやお月さん 煙たかろ サノヨイヨイ
炭坑節 1番
炭坑節で「あんまり煙突が高いので」と謡われたのが、この三井田川鉱業所伊田竪坑の煙突。田川のシンボルでもあります。
この炭鉱節の発祥は、三井田川炭鉱の女性労働者が歌っていた「伊田場打選炭唄(炭鉱でとれた炭を選別しながら唄ったうた)」だと言われています。
ところが上の歌詞の中では田川じゃなくって「三池炭鉱」になっていますよね。これは戦後、芸者歌手が歌い大ヒットした替え歌の歌詞が、同じ福岡の大牟田にある三池炭鉱になっていたため、こちらの方が有名になってしまったようです。
とはいえ、炭坑節の発祥は田川であることに変わりなく、それは福岡県知事からもお墨付きです。
すぐそばには国指定史跡となっている竪坑櫓も残っています。
ちょっときれいにされすぎてる感はありますが、カッコいいですね。
田川市石炭・歴史博物館のリアルな人々
この煙突や竪坑櫓、炭坑節発祥の地記念碑があるのが、田川市石炭・歴史博物館の敷地内。
名前の通り、ここは石炭を主テーマとするユニークな博物館ですが、かつての三井田川鉱業所伊田竪坑があった場所に建てられているのです。
まずは屋内展示ですが、基本、すごくおもしろいものはありません。そうだね、炭鉱だね!っていう感じのものばっかりです(個人的な感想です)。
あえて言えば、これとかちょっとリアルでよかったかな。僕がもし中学生だったら、きっと相当壮大な妄想してただろうな。
むしろ屋外展示場にある炭鉱住宅とかがおもしろかったです。
明治・大正・昭和期の間取りを再現した住宅がならんでいるのですが、妙にリアルな人形が、思いっきり生活臭を漂わせてるところがいいですね。
この奧さんの表情がさえないところとか、何とも言えません。
そしてこのおとーさん、ときどき突然ぶつくさ言いはじめて「おーい、酒だ、酒持ってこーい」みたいに叫んだりします。
こんな夫婦を見ていたら、なぜか炭坑節の歌詞を思い出しちゃいました。
お礼を枕に 寝るよりもヨイヨイ
月が射し込む バラックで
主の腕に ホンノリと
妾しゃ抱かれて 暮らしたい サノヨイヨイ
ふたりともなんだかつまらない人生を送っているように見えますが、夜になればこのおとーさんとおかーさんは静かに枕を並べ、月が射し込むこの炭坑住宅で、意外にも幸せな気持ちで抱き合っていたのかもしれませんね。
炭坑節は、もとは春歌(春画の唄バージョン)だとも言われていて、男女の性愛の営みなども歌われていたようです。
一山 二山 三山 越えヨイヨイ
奥に咲いたる 八重つつじ
なんぼ色よく 咲いたとて
サマチャンが通わにゃ あだの花 サノヨイヨイ
こんなのも炭坑の女たちの激しい情愛が垣間見られる刺激的な歌詞ですね。
山本作兵衛コレクション
博物館の2階に「山本作兵衛コレクション」と呼ばれる展示室がありました。
山本作兵衛さんは筑豊の飯塚出身の炭鉱労働者で、のちの炭坑記録画家。田川の長尾鉱業所の夜警宿直員時代に炭坑記録画を描き始めたのですが、その作品は当時の炭坑の様子を残す貴重な資料となったことから、日本で初めてユネスコの世界記憶遺産の認定を受けました。
僕も以前、田川市の職員の方から山本作兵衛さんの話は聞いたことがあり、一度その絵を見てみたいと思っていました。
中は残念ながら撮影禁止で、作品は厳格に管理されているので、ここでお見せするわけにはいかないのが残念です。
【企画展】世界文化遺産登録応援展「炭鉱の記録と記憶」を常設展内で開催中!あの山本作兵衛氏が描いた最大の炭鉱記録画作品など、炭鉱の記憶を伝える記録資料盛りだくさん。詳細はhttp://t.co/UtvRWxjWrK pic.twitter.com/zmrokQMD1k
— 北九州市立いのちのたび博物館 (@KMNH_kitakyushu) April 28, 2015
このtweetに貼られている写真は明治の中期、まだ夫婦ペアで炭坑に入っていた時代の絵。旦那の背中の激しい紋々と、この頃はまだ上半身裸で作業する奥さんが特徴的ですね。
詳しくは田川市の特設サイトにたくさんの絵が掲載されています。下のリンク先は有名な混浴の銭湯の絵です(貴重な当時の風俗画ですので中学生みたいな妄想は禁止です)
2階から展望所に出ると、田川の町並みの向こうに筑豊のシンボル、香春岳が見えました。
おー、相変わらずカッコいい!
きっと作兵衛さんたちもこの雄姿を見ていたはずですが、当時よりずいぶん削られちゃったのかもしれませんね。
お茶屋さんの焼きもち
僕が個人的に絶賛している地元メディア「たがわライフ」情報によると、田川伊田の駅前にお茶屋さんだけどスイーツが有名で、特に焼きもちが絶品!というお店があるということだったので、帰りに寄ってみました。
確かにたくさんの種類があって、かつどれもおいしそうで迷っちゃう感じだったのですが、厳選して4つ買ってみました。
まだ焼きたてであたたかく、めちゃめちゃおいしかったのですが、これで1個100円とか120円とかなら安いよな、と思ってたらお店のおねーさんがおまけにたいやきまでくれました。
はたしてこんなふうに全員におまけをくれるのか、はたまた田川ではなかなか見かけないタイプのナイスミドルが風のようにぶらっと入ってきて、さっそうとやきもちを買っていく姿があまりにも秀麗だったため、思いのたけをたいやきに託してしまったのかわかりませんので、今度田川を訪れる旅人のみなさまにおかれましては過度な期待はしないようにお願いします。
おまけ ~日本一「世界の終わり的」な駅、再び
田川の帰りに後藤寺線に乗り、久しぶりにあの世界の終わり感満載の「船尾駅」を通りました。
今回は駅では降りなかったのですが、車窓からVTRを撮影したので紹介します。前回は新飯塚に向かって進行方向右側でしたが、今回は左側、石灰工場のどまんなかを通り抜けています。
相変わらず世界の終わりですね。。。
<2021年7月訪問> 最新の情報は公式サイト等でご確認ください
田川市石炭・歴史博物館への旅
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