茨城の真壁という古い町で立派な雛祭りをやっていると聞いて、ずっと行ってみたいと思っていました。
しかしこの真壁、関東平野のど真ん中にあるのに、かつては域外からの公共交通機関がまったく通じていない、陸の孤島だったのです。
今は近くのJR駅から路線バスが運行されるようになったのですが、僕が行った当時はその陸の孤島感は半端なかったのでした。とてもいいひな祭りでしたが。
※2021年のひなまつりは残念ながら中止になってしまいました
陸の孤島、真壁へ
真壁は、戦国時代の大名、真壁氏によって形づくられた町割りのなかに蔵や門などの歴史的建造物がたくさん残されていて、茨城県で唯一、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている町。
ところが、僕が真壁に行った2015年当時は域外からの公共交通機関がまったく通じていない、陸の孤島だったのです。※現在は桜川市バス「ヤマザクラGO」が運行されて少し便利になっています。
まあ、確かに田畑に囲まれたのどかな田舎ではあります。
場所的にも(東京側から見ると)筑波山の裏側の、ちょっと地味目なところです。
しかし、厳しい山々や深い谷に閉ざされたロケーションでもなく、関東平野のど真ん中にあるこの町が、なぜ鉄道や路線バスはおろか、馬車も人力車も籠さえない、このような陸の孤島状態なのかわかりません。
(あとあと調べてみたら、昔は土浦と岩瀬を結ぶ筑波鉄道の駅が真壁にあったらしいのですが、1987年に廃止され、その代替バスも2011年に廃止されてしまったようでした)
とにかく、真壁という町に公共交通機関を使って行こうと思ったら、最寄りのJR水戸線の新治、大和、岩瀬駅あたりから片道10キロ歩くしかないのです。
ところがこの真壁、最近はひな祭りで有名になっているようで、2月中旬から3月3日のひなまつりイベントの時期は多くの人出でにぎわうため、この期間限定で、なんと臨時のバスが運行されていたのです。
これでようやく陸の孤島、真壁へ行くチャンス到来、ということで喜び勇んで出かけたのでした。
まあ車を使えばいつでも簡単に行けるんですけど、それだと旅っぽくないので・・・
そんなわけで、まずは向かったのはJR水戸線の新治駅。
真壁までの臨時のバスが二つ隣りの岩瀬駅から出ているはずですが、それは帰りにとっておき、せっかくなので往路は散歩がてら、最寄りのこの駅から10キロ弱を歩いて行ってみることにしました。
と思ったら、いきなり北関東の洗礼かよ…
しかしこれが冬の北関東のあるべき姿です。僕は群馬育ちだったのでよくわかります。
こういう中でも外で元気にサッカーとか缶けりとかだるまさんが転んだをやるのが北関東の子供たちでした。
もし今やれと言われても絶対無理だけど。
2,3度竜巻かと思うような突風の攻撃を受けましたが、北から南へと風下に向かって歩く形にしていますので、うまく追い風に乗りながら筑波山に向かって歩くこと約2時間、ようやく真壁の看板が出てきました。
真壁高校の横を抜けて市街に入ると、これ。
なんと、北関東の陸の孤島に溢れる人々!
真壁のひなまつり、想像以上ににぎやかです。
「真壁のひなまつり」とは
真壁のひなまつりは、最初は20数軒の有志で始まった雛人形の公開がだんだんと増えてゆき、今では町じゅうで150軒もの家々が参加しています(2015年当時)。
これは一番最初に入った、着物屋さんのひな飾り。
町の石材屋さん。真壁は石材の生産地としても有名なのだそうです。
川島書店見世蔵。
ここは店舗と住居を兼ねた蔵だった場所だったそうですが、この中にもひな壇があります。
なんとこの正面のものは江戸時代のものだそうです。
真壁にはたくさんの蔵があり、お雛様はそこで大切に保管しているので、非常に保存状態がよいのだそうです。
いやいや、なかなかすごいぞ真壁。
陸の孤島まで頑張ってやってきた甲斐があるじゃないか。
よくも町じゅう揃いも揃って、こんなに古くて歴史あるお雛様を、大切に保存してたなあ、とびっくりするくらいです。
伝統的建造物の立ち並ぶ町じゅうに、これだけの立派なお雛様が飾られていれば、それは確かに賑わうはずですね。
真壁市街の中心、御陣屋前通りと高上町通りの交差点にあるのが旧真壁郵便局の建物。
この四つ角を中心に、重要伝統的建造物群保存地区となっている旧真壁地区の広い範囲でお雛様が飾られ、一般に公開されています。
大きくて華やかなものは、やはり一般の家庭よりも古くから商店や自営業をやっている家に多いようです。
これは「旅籠ふるかわ 」。
2階の窓にお雛様が飾られている、真壁ひなまつりの名所のひとつです。
ここは一日1組限定のお宿として人気なのだそうです。
その隣にある川島洋品店の店内を抜けると、奥に川島家文庫蔵という古い蔵があり、その中にもお雛様が。
これは明治初期のものですから、150年くらい前のものですね。
そしてこれが真壁ひなまつりを代表する家の一つ、潮田家のおひなさま。
江戸から昭和までの各時代のお雛様が揃っています。
潮田家は江戸時代から呉服・荒物・雑貨商を営み、明治になってさらにその業容を拡大、関東の三越、と呼ばれるほど繁栄していたそうで、往時の興隆ぶりを偲ぶこの建物は登録有形文化財となっています。
伊勢屋旅館。
この建物も登録有形文化財となっています。
中は、古い日本間とひな壇が絶妙に調和して素晴らしい空間になっています。
同じように、背景の日本間に魅かれた西岡商店のひな飾り。
どこか懐かしいと思ったら、ここは昔よく行った僕のじいちゃん、ばあちゃんの家にそっくりでした。
これらは代表的なもののほんの一部で、まだまだたくさんのお雛様がありました。
いやー、いいじゃないか真壁、なかなか楽しいぞ。
真壁の伝統的建築物群保存地区
真壁は茨城県唯一の重要伝統的建築物群保存地区でもあり、古い町並み巡りも楽しいところです。
真壁の特徴は、町並みの統一性というよりは、個々の建築物の魅力にあるのではないかと思います。
ある一定の通りに古い町並みが軒を並べている、というよりは、有形文化財に指定されているような特徴ある建物が市街の広い範囲に分散しているという感じです。
なので、町そのものよりは、個々の建物のほうが写真映えするかもしれません。
市心からちょっと外れたところにある、真壁でも指折りの旧家と言われる谷口家。
その向かい側にある谷口家の蔵。
橋本旅館。ここも登録文化財です。
1階に小洒落た喫茶室があったので、入ってみたのですが、グッドデザイン賞を受賞したお店らしく素晴らしいセンス。
コーヒーもチーズケーキもかなりレベルが高く、混んではいましたが大正解でした。
橋本旅館1階ロビーのひな飾り。
橋本旅館のはす向かいにあった建物。
名前をチェックしていなかったのですが(安達屋さん?)めちゃくちゃ風格ある建物でした。
再び、陸の孤島体験?
裏通りの方をぶらぶらと歩いて時間をつぶしてから、16時の最終バスに乗るため、臨時バスの出発地になっている高上町の駐車場に向かいます。
高上町駐車場に着くとバスの待合所はあるものの、人の気配はありません。
15時55分、もう出発の5分前です。
クルマ社会の茨城では、今さらバスなんかを使ってここに来る人はいないのでしょうか?
念のためバスの時刻表を確認します。
「16:00」
間違いありません。
なんといってもここは陸の孤島、この最終バスを逃すと一大事です。
16時。
人どころか、バスも来ません。
むむ、これはなんかおかしいのではないか?
もう一度時刻表を確認します。
「16:00」、間違いありません。
しかし一つ間違いを発見しました。
運行日:2015年2月22日(日)~3月3日(木)まで
そう、この日はまだ、2月15日(日)でした。。。
ヤバっ、陸の孤島に取り残されちまった。
とりあえず歩きはじめたものの、帰りは北風が正面からまともに吹き付けてくるので、寒いのはもちろんですが、なかなか前に進んでる感がありません。
見渡す限りの田畑の中、信号もほとんどなく、まっすぐに走る道路を背を屈めながらひたすら歩きます。
ときどき、ダッシュボードをぬいぐるみだらけにした、下妻物語の土屋アンナふうの若妻が猛スピードで僕の横を通り過ぎていきます。
こんな陸の孤島で、どうかしたっぺ?よかったらちょっとのってがねえか?
寒さと疲れで意識が朦朧とし、そんなヤンママとのアバンチュールを夢に見ながら危うく道端で眠りに落ちそうになります。
いかんいかん、こんなところで眠ったら凍死してしまう。
と北風に背を向けると見える、筑波山の雄姿だけを心の支えに再び2時間、歩いたのでした。
真壁の最寄り駅ということもあるのでしょうか、ようやく着いた「大和駅」は無人でしたが、ここにもきれいな雛飾りがありました。
真壁は僕みたいな旅人にはまさに陸の孤島でした。
でも終わってみればなんだかんだでわりと楽しかったな。
今はバスもちゃんとあるので、ぜひ行ってみてください!
<2015年2月15日訪問> ※最新の情報は公式サイト等でご確認ください。
※残念ながら2021年のひまなつりは中止となってしまいました。来年行ってね!
真壁のひなまつり基本情報
真壁のひなまつりへの旅
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