北海道平取(びらとり)町の二風谷(にぶだに)地区は、人口の過半数をアイヌ人が占めていて、北海道内でアイヌ人の比率が最も高い地域。
ここには「二風谷コタン」と呼ばれ、アイヌ文化を伝える博物館や資料館、土産店などが並んでいる一角があります。
白老にオープンした「ウポポイ(民族共生象徴空間)」に行く予定があったので、その前にまずはアイヌの聖地であるこの場所を見ておきたい、と思ってやってきたのでした。
僕にとっての「二風谷」
二風谷コタンは北海道日高地方の北部、新千歳空港から60キロほどの場所にある沙流川沿いの静かな集落。
ここは今なお多くのアイヌの人々が暮らすアイヌ文化の聖地といわれています。
数年前にすぐ近くの平取町の中心部まで来たときに、道路標識で「二風谷」という文字を見て、強烈に行ってみたいと思ったのですが、その時は時間がなくて来ることができませんでした。
「二風谷」という地名に見覚え(聞き覚え)があったのは、僕が大学時代北海道に住んでいた時に、おそらくニュースでよく流れていた地名だったからなのだと思います。
当時、ここに建設予定だった二風谷ダムの建設差し止めを求めてアイヌ民族が国に対して訴訟を起こしていたことが道内ではたびたびニュースとなっていたのですが、恥ずかしながら僕はそんなことには全く興味がなく、その概要もほとんど知らないままだったのです。
その後も毎年北海道を訪れ、アイヌ語の地名や「カムイ~」のようなアイヌの言葉に接していながら、アイヌのことなんて何も知らなかったことに気づいたのです。
そんなわけで、同じくアイヌ文化の発信基地である白老町に今年オープンしたばかりのウポポイ(民族共生象徴空間)に行く前に、この二風谷に来てみたかったのでした。
二風谷コタンと二風谷アイヌ文化博物館
コタンはアイヌ語で「村」「集落」を意味する言葉。
この二風谷コタンはかつてのアイヌの集落を再現する敷地の中に「二風谷アイヌ文化博物館」や「二風谷工芸館」などの施設が立ち並んでいます。
敷地内に立つ家屋は「チセ」と呼ばれるアイヌの住居。
この中はアイヌの人々の作業場となっていて、工芸品などの制作している様子を自由に見学ができます。
その二風谷コタンの中核施設がこの「二風谷アイヌ文化博物館」。
ここは1992年に開館した博物館ですが、アイヌの歴史の紹介のほか、衣類や生活用品など、千点以上のアイヌ民具が収蔵されているめちゃくちゃ立派な施設でした。
収蔵品の多くは、この二風谷に生まれ、前述の二風谷ダム訴訟の原告であった萱野茂さんが集めていたもの。
二風谷ダム訴訟をきっかけとして、国が差別的法律として悪名高かった北海道旧土人保護法を廃止し、アイヌ文化保護を目的としたアイヌ文化振興法を成立させたことにより、この二風谷アイヌ文化博物館も国庫からの補助対象として拡充されたため、今のような立派な施設になったんでしょうね。
僕はどちらかというと展示品よりもアイヌのユカラ(叙事詩)・カムイユカラ(神謡)・ウウェペケレ(昔話)みたいなものに興味があったので、展示内容の詳細についてはこちらのめちゃめちゃ立派なWebサイトをご覧ください。
僕は知らなかったのですが、この「ゴールデンカムイ」という漫画をみてアイヌに興味を持ち、この二風谷へとやってくる人も多いのだそうです。
二風谷コタンには、このほか近くの遺跡から出土した文化財や化石などが展示されている博物館「沙流川歴史館」やアイヌ工芸品の展示や販売をしている「二風谷工芸館」などもあります。
敷地内にはカフェなども併設され、かなり本格的な観光スポットになっているのですが、調べてみるとこの「二風谷コタン」自体も2019年に整備されて新装オープンしたばかりなんですね。
平日ということもあって人はまばらでしたが、ウポポイの開業に合わせて、ここも一緒にめぐる人が増えるといいですね。
二風谷の集落と萱野茂二風谷アイヌ資料館
二風谷コタンから国道を挟んだ向かい側に二風谷の集落があります。
アイヌの民芸品店などが並ぶ通りを奥へと進むとその先にあるのが「萱野茂二風谷アイヌ資料館」。
ここは二風谷出身でアイヌ文化の伝承に力を注ぎ、アイヌ民族初の国会議員となった故・萱野茂(かやの しげる)さんが所蔵していた個人コレクションを展示する資料館です。
前述の二風谷アイヌ文化博物館の収蔵品の中にも、萱野さんの収集したものが多く展示されていますが、ここにもアイヌ民具のほかに、世界の先住民族の民具など1000点を越える展示品があると言います。
二風谷でアイヌ語しか話せない祖母に育てられたという萱野さんは、日本への同化政策によって急速に失われてゆくアイヌの言葉・民具などを後世に残すために活動をしたアイヌ文化継承の第一人者。時に強引にも見えたその手法に賛否はあるかもしれませんが、厳しい北の国で生き抜くために、和人とは全く違う独自の文化を持っていた民族がいたことを広く知らしめた功績は大きいと思います。
ユニークだな、と思ったのはこの看板。
あなたの家からここまで来るのに10万円
入館料は400円。
時間がありましたら、どうぞご入館ください。
なんとなく萱野さんっぽい言い回しだな、と思いましたが、本人が建てた看板かどうかはわかりません。
二風谷ダムと岩知志のトトロの木
二風谷ダム訴訟の原因となった「二風谷ダム」も近くにあるので行ってみます。
ダムが作られている沙流(さる)川は日高山脈を源流とする美しい河川。
貯水量はそれほど多いようには見えませんでしたが、このダムの建設により二風谷のアイヌの人々が行ってきた伝統儀式などに大きな影響が出たようです。
大学生の頃、僕はこの沙流川に沿ってバイクを走らせ、源流に近い日高山脈の日勝峠を越えて十勝へと抜けたことがありました。
おぼろげな記憶だと、札幌から夕張を抜けて日高方面に入ってきたのですが、二風谷を通った記憶がないので、穂別から富内、振内を経由して日高町に向かったのでしょう。
今回は千歳空港で借りたレンタカーで来ていたのですが、そんなこともあって少し沙流川に沿って上流まで走ってみました。
クルマを降りたのは二風谷から20キロほど上流の平取町岩知志というところ。
ここにこんな木があると聞いていたのです。
おおお、トトロの木じゃんよー!
別にトトロのファンではないのですが、せっかく近くにあるのでちょっと見に来てみたのでした。
少し紅葉も始まった、北海道の素晴らしい秋の午後、さっそくクルマを降りて木のある方へと進みます。
しかしぐるっとまわって正面にまわってみても、トトロがいません。
???
どうやらこの木がトトロだったのは数年前までだったようで、今はすっかり普通の木に戻ってしまったようでした。
20キロも寄り道してきたんだけど、まあ沙流川沿いの道が懐かしかったからいいか。
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